【2023年7月4日 開催】2023年度 蛋白質工学研究会「抗体創薬を深く議論する =AI、engineering から formulation まで=」

2023年4月25日

日本蛋白質科学会では産官学の研究交流・情報交換を積極的に推進する活動を行うため、蛋白質工学研究会を設置しております。そして例年学会年会の前日に参加費無料のワークショップを開催し多数参加頂いております。ここではとくに産業界から要請の強い話題について、最先端の話題に関するご講演頂いております。

さて2021年度、売上高100億ドルを超える9つの医薬品のうち3つが抗体医薬品、2つが半抗体医薬品という状況です。このように抗体は引き続き重要な modality であり、とくに昨今は通常の抗体から改変型抗体へとシフトしているため、engineering の重要性が高まっております。またこれに付随し formulation の難易度も上がっております。またこの分野においても機械学習など AI の活用が進んでおります。このような状況から今年度は、「抗体創薬を深く議論する =AI、engineering から formulation まで=」と題して、ベンチャー企業、製薬企業での先端的取組を紹介いただき、ご参加頂く皆様と深く議論をする機会と致したく存じます。

開催概要

開催日 2023年7月4日 15:30 – 18:00
会場 名古屋国際会議場 4F 141+142
開催方法 現地開催
主催 日本蛋白質科学会、蛋白質工学研究会
世話人 内山 進、白井 宏樹
参加費 無料
事前登録 不要

プログラム

15:30 はじめに
内山 進(大阪大学・工学研究科)
15:35 Beyond Antibody: VHH 創薬の挑戦
土屋 政幸((株)EME・取締役)

VHH は創薬に有利と考えられてきた。例えば、熱・構造安定性に優れ、シングルドメイン構造であり遺伝子工学の手法で容易に分子デザインができ、従来の抗体と同様に標的に対して高い親和性と特異性を示し、細胞内で発現・機能する。VHH の取得は、高品質のライブラリーを活用すること、あるいはトランスジェニックマウスの活用が中心となっている。EME では cDNA display 技術とヒト化合成 VHH ライブラリーを組み合わせたスクリーニング・プラットフォームを構築し、迅速に幾つものクローンの単離が可能となった。このプラットホームは抗原結合活性、Tm、Tagg のデータセットを提供し、AI 化に有効な活用も期待できる。また最近では細胞内の標的分子に対して細胞内の還元条件下で VHH をスクリーニングできる細胞内標的用ライブラリーの開発に成功した。これは VHH を中分子創薬への応用を可能にする。創薬では、アゴニスト VHH 分子の創薬に取り組んでいる。がん治療ではプレターゲティングに VHH を用いることも検討してきた。世界でも VHH は次世代の抗体創薬の筆頭候補として注目され、創薬研究が活発化している。ただし、VHH は1993年に発見されたもののしばらくは限られた研究グループで開発が進められたため、創薬のバリュウチェイン全体から見ればまだまだ多くの課題を残している。AI への適応も含めて今後急速に発展する研究領域と期待される。本研究会では VHH の課題について深く議論できれば幸いです。

16:00 in silico free energy score を用いた VHH の点変異による Tm 向上
富本 裕介(アステラス製薬・バイオロジクス研究室長)

Gibbs の自由エネルギースコアである dStability 計算と少数の実験を組み合わせた2段階の合理的アプローチを抗リゾチーム VHH である D3-L11 に対して適用した。その結果、抗原への親和性を保ったまま Tm が5℃以上向上した点変異を見出した。親和性維持と Tm 向上の両立は難しく、我々の知る限りにおいて、VHH において親和性維持と5℃以上の Tm 向上を両立した初めての事例である。この変異は VHH 配列に保存されていないアミノ酸であり、AI を補完する方法としても期待している。

16:25 機械学習を取り入れた進化分子工学 aiProtein® 技術によるタンパク質医薬創出
浜松 典郎(株式会社レボルカ・シニアディレクター)

人工知能である機械学習は、小規模な特性、配列情報から配列空間における適応度地形を統計的に予測する。これにより、従来の逐次探索的な進化分子工学の手法と比べ、効率的に高い成功率でより優れた改変タンパク質の取得が可能となる。また、複数の独立する機能を同時に最適化することにも成功している。本演題では、レボルカの独自技術である aiProtein® の技術背景とその実施例を紹介する。

16:50 AI を用いた抗体分子設計 ~米国製薬企業との共同創薬パイプライン事例~
小川 隆(株式会社 MOLCURE・代表取締役 CEO)

近年の創薬コンセプトの高度化により、既存手法では探索が困難な性能を持つ分子の創出が求められている。MOLCURE では、AI を用いた分子設計技術を開発し、高度な性能を持つペプチド/抗体の分子設計を可能にした。本講演では、MOLCURE の AI 分子設計技術を導入することにより、探索困難な抗体分子の創出において成功を収めた、米国製薬企業との共同創薬パイプライン事例について紹介する。

17:15 抗体医薬品の処方設計
中山 智仁(株式会社ユー・メディコ・開発研究部研究員)

抗体医薬品の開発において、抗体を長期間安定に保つための処方(液剤の場合には溶媒組成)の開発は重要である。しかし、処方の探索条件は、pH、塩、緩衝剤、添加剤の種類や濃度など多数の組み合わせがあり、最適な処方の探索には膨大な時間と労力を要する。本講演では、保管に伴う凝集体の発生に着目し、抗体溶液の物理化学的パラメータと加速試験の結果から抗体医薬品の安定性の指標となる凝集傾向について予測する技術を用いた、効率的な処方開発について紹介する。

17:40 総合討論
白井 宏樹〈司会〉(理化学研究所・計算科学研究センター)
17:55 おわりに
中川 敦史(大阪大学・蛋白質研究所)