【5月31日更新】第8回蛋白質工学研究会ワークショップ『蛋白質の質量分析・質量計測の基礎と応用』

2022年3月2日

2022年5月31日 更新

事前登録を締め切りました。

2022年3月25日 更新

プログラムに要旨を追加しました。


日本蛋白質科学会では産官学の研究交流・情報交換を積極的に推進する活動を行うため、2013年に蛋白質工学研究会を設置しました。その活動の一環として、特に産業界から要請の強い話題について最先端の話題を数名の演者に御講演頂くワークショップを定期的に開催しております。

本年は質量分析におけるイオン化法での業績により田中耕一氏と Fenn 氏にノーベル化学賞が授与されてから20年にあたります。この間、蛋白質の質量分析は発展を遂げており、具体的な利用例として、蛋白質同定、質量(分子量)決定、配列確認、翻訳後修飾解析、相互作用解析、立体構造解析、質量顕微イメージング等があり、蛋白質工学分野においても欠かせない手法となっています。こうした発展には、アカデミアでの基礎研究に加え、質量分析メーカーの研究開発に基づいた装置とソフトウェアの両面からの高性能化が寄与しています。さらに、近年、新たな質量計測手法であるマスフォトメトリーも登場し利用が広がっています。第8回蛋白質工学研究会では、蛋白質の質量分析・質量計測に焦点をあて、国内のアカデミア研究者とメーカーのサイエンティスト・ケミストより基礎から最近の進展までをご紹介頂きます。

申込み方法

事前登録は締め切りました。

当日参加も可能ですので、参加を希望される方は現地会場にお越しください。

問い合わせ先

suchi@bio.eng.osaka-u.ac.jp(内山 進)

開催概要

開催日 2022年6月6日 15:30 – 18:10(予定)
開催方法 つくば国際会議場 B 会場
(新型コロナウイルスの状況によって変更となる可能性があります)
主催 日本蛋白質科学会・蛋白質工学研究会
世話人 内山 進、白井 宏樹
参加費 無料

プログラム

15:30 - 15:35 はじめに
津本 浩平(東京大学)
15:35 - 15:40 第8回ワークショップについて
内山 進(大阪大学)
15:40 - 16:00 質量分析の基礎
明石 知子(横浜市立大学 大学院生命医科学研究科)

タンパク質の定性的解析を行う上で用いられる質量分析法の概要を解説する。現在、質量分析装置は多種多様のイオン化、分析計が組み合わされたものが市販されているが、タンパク質の解析の目的に応じて適切な装置を選んで使用する必要がある。タンパク質の質量分析を行うにあたり、知っておくべきポイントを挙げて解説する。

16:00 - 16:20 蛋白質の質量分析1
韮澤 崇・坂本 太郎(ブルカージャパン株式会社)

MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)は様々な試料に対して非常に適合性の高いイオン化法であり、試料とイオン化を促進させるマトリックス試薬を混合してレーザー照射することにより、分子をイオン化させる。一方、飛行時間型質量分析計 TOF MS(Time-of-Flight Mass Spectrometry)は、質量分析計の中でも特に簡単な原理で動作しており、イオンが一定の距離を飛行するのに要した時間を計測する。質量が小さいほど飛行時間は短く、質量が大きいほど長いため、飛行時間を換算することで質量を求めることが可能である。

これらを組み合わせた MALDI-TOF MS は、分子量数万を超えるイオンが検出でき、理論上測定可能質量に上限がないことなどから、蛋白質などの生体高分子解析に欠かすことのできない質量分析計となっている。さらに、対象となるアプリケーションはプロテオミクス、分子イメージングからポリマー解析など多様なニーズに対応している。本ワークショップでは MALDI-TOF MS の原理から応用まで、幅広く紹介する。

16:20 - 16:40 蛋白質の質量分析2
肥後 大輔(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)

タンパク質の質量分析において使用されるイオン化法の一つとして ESI が挙げられる。ESI の特徴は溶液状態から直接分子イオンを生成するため、HPLC や CE など分離装置と質量分析装置の接続(LC-MS、CE-MS)に重要なイオン化法である。

タンパク質を対象とした質量分析の役割の一つであるプロテオーム解析において二次元電気泳動が活発であったころ、LC-MS によるプロテオーム解析で活躍する質量分析計はイオントラップであった。イオントラップはその名のとおり、四重極内部でイオンをトラップしたのちにスキャン(Full MS)、またトラップされたイオンの一つを内部に単離して内部に充填された He ガスと衝突することで開裂(MS/MS)を高速に行う事が可能であったことから大規模プロテオーム解析の試みが始まった。より高度な大規模プロテオーム解析に活躍する質量分析計として Orbitrap テクノロジーが開発される。Orbitrap は中心電場にイオンを射出、イオンは中心電場を回転しつつ左右へ振動する。この左右の振動周波数が質量として記録される。特徴として高性能な質量精度と分解能にあり、より高度な大規模プロテオーム解析で活躍することとなる。やがて Orbitrap の高性能な質量精度と分解能はウイルスなど巨大タンパク質複合体の観測やクロスリンクによる解析に発展している。

16:40 - 17:00 蛋白質の質量分析3
廣瀬 賢治(日本ウォーターズ株式会社)

蛋白質を消化、断片化せずに質量分析をするいわゆるインタクト質量分析は、近年その技術が急速に進展している。蛋白質の質量情報が迅速かつ正確に取得できるだけでなく、構造に関する情報も得られる新しい技術が登場している。ここでは、イオン移動度スペクトロメトリー(IMS)とインタクト質量分析を組み合わせた技術を紹介する。IMS は電場が印加された気相中で、荷電した蛋白質をその見かけの大きさ(緩衝ガスとの衝突断面積)、電荷数、質量などに依存する移動度の違いを利用して分離、識別する技術であり、ここ10数年で、コンフォーマーの分離、複合体の解析に使用される事例が増えている。また最近では、多段階 IMS を利用した衝突誘起アンフォールディング(CIU)と呼ばれる構造解析技術が注目されている。ここでは実例を紹介しながら今後の展開について議論させて頂きたい。

17:00 - 17:20 質量分析による蛋白質の相互作用・構造解析
内山 進(大阪大学)

蛋白質同士が相互作用する部位の特定や相互作用に伴う構造変化の解明は、生命現象の理解から医薬品開発・製造にいたるまで重要な課題である。X 線結晶構造解析、核磁気共鳴法、近年ではクライオ電子顕微鏡解析、は、構造面からの蛋白質間相互作用解析において最も頻用される手法となっているが、加えて水素重水素交換質量分析法(HDX-MS)も有力な手段となってきた。HDX-MS では蛋白質を重水に晒した際に、ペプチド結合のアミド水素が重水素と交換する反応をペプチド単位で質量分析を用いて経時的に計測することで、相互作用や構造変化部位の決定が実現される。ただし、HDX-MS では分子同士の配置に関する情報は得られない。そこで、クロスリンク質量分析(XL-MS)により近接する Lys 残基間の距離情報を取得し、条件を満たす配置を計算により取得するアプローチが利用されている。本講演では、HDX-MS および XL-MS の実例についての事例を紹介しながら、それぞれの手法の強みと限界について紹介する。

17:20 - 17:40 質量分析によるタンパク質複合体解析
明石 知子(横浜市立大学 大学院生命医科学研究科)

ネイティブ質量分析(native MS)ではタンパク質が構成する様々な複合体を丸ごとイオン化し、その質量を正確に決定できる。この native MS を用いて解析した、以下の最近の研究成果について紹介する。

  1. タンパク質と DNA からなるヌクレオソームコアの関わる複合体:400 kDa を超えるタンパク質–DNA 複合体の観測によりストイキオメトリーを確実に決定できた。不揮発性緩衝液の利用で不安定な複合体でも観測できた。
  2. single-cell native mass spectrometry:たった一つの赤血球からヘモグロビン四量体のイオンを再現性良く観測することに成功した。
  3. 膜タンパク質の native MS:ミセル化して可溶化したリガンドが結合した膜タンパク質を、ミセルだけ剥がしてリガンドが結合した状態の観測に成功した。
17:40 - 18:00 蛋白質のマスフォトメトリー(測定原理)
武田 公利(株式会社ユー・メディコ)

マスフォトメトリー(MP 法)は溶液中の生体分子やナノ粒子等の分子量分布を評価する手法である。MP 法は干渉散乱顕微鏡法(iSCAT)を基本原理としており、測定ステージとなるガラス基板上に吸着するサンプル1分子毎の散乱光を検出して分子量を見積もることができる。そのため低濃度(~nM)での蛋白質の会合状態や解離定数等の測定が可能である。本講演では MP 法の原理を中心に基礎的な内容を紹介する。

蛋白質のマスフォトメトリー(測定例)
志波 公平(レフェイン株式会社)

マスフォトメトリー法(MP 法)では、溶液の測定環境を任意に設定できることから、様々な環境下における蛋白質の状態を評価することができる利点がある。本発表では MP 法の他原理との比較を交えた、特に巨大分子の相互作用解析を含む物理特性解析と、MP 法が併せ持つ高感度の性質を利用した他原理をサポートする計測事例を紹介し、本原理の蛋白質科学への展望について述べたい。

18:00 - 18:10 おわりに
中川 敦史(大阪大学)