行政刷新会議・事業仕分け判定に関する要望書について
日本蛋白質科学会は、日本生物物理学会、日本結晶学会と共同で、「行政刷新会議・事業仕分け判定に関する要望書 —大型放射光施設の重要性—」と題した要望書を、12月16日に文部科学省に提出しました。
平成21年12月16日
日本蛋白質科学会会長 月原 冨武
行政刷新会議・事業仕分け判定に関する要望書 —大型放射光施設の重要性—
文部科学大臣 川端 達夫 殿
文部科学副大臣 中川 正春 殿
文部科学政務官 後藤 斎 殿
平成21年12月11日
11月13日の行政刷新会議第3ワーキンググループにおいて、「大型放射光施設(スプリング8)については、少なくとも1/3から1/2の予算の縮減を求める」という判定がなされました。これに対し、生命科学分野における当該施設の利用者の多くを擁する3学会として、強い懸念の意を表明いたします。
SPring-8 は日本における基礎生命科学の重要な研究手段として、多くの研究者によって活用されています。我々3学会の会員を含めた大学や公的研究機関の研究者を中心に、公正で厳格な運営のもとに、真の公共的共用大型施設として多大な実績を挙げております。その生命科学における利用範囲は、蛋白質・核酸・脂質等の構造と機能の研究に加えて、細胞・生体の画像解析や放射線生物学など多岐に及んでいます。さらにはこれらの研究活動を通じて、我が国の将来の科学技術を担う人材の育成にも大きく貢献しております。
行政刷新会議の議論では「利用料」への関心が集まっていましたが、SPring-8 での放射光を用いた研究の大半は直ちには収益の期待できない先端基礎研究です。これらの成果は人類共通の財産となるだけでなく、10年後、20年後の日本の科学技術や医療・産業を支えるものであり、公的支援が必要です。例えば蛋白質結晶構造解析の最終目的は良い薬を作り出す「創薬」にあると言われますが、それにはまず蛋白分子の構造を明らかにする必要があります。この構造はデータベース上で公開され、それを基礎として5年、10年の歳月をかけて創薬が行われます。SPring-8 において大学等の研究者はこの構造解明を行っており、この成果が製薬会社等による薬剤開発を直接の目的とした有料利用へと結びついております。重要な疾患に対する薬物の開発には、その疾患に関係する蛋白質の構造を明らかにする必要がありますが、その任務を負っている「革新的タンパク質・細胞解析研究イニシアティブ(ターゲットタンパク質研究プログラム)」に対しても、行政刷新会議では大幅な予算の縮減が求められました。これは将来の薬剤開発の芽を摘むだけでなく、将来の製薬開発を支える人材を根絶やしにすることになります。
本年度のノーベル化学賞は、X 線結晶構造解析によるリボソームの研究に与えられました。これは SPring-8 のような最先端の放射光施設がなければ不可能であった研究であり、そのために3名の受賞者は、我が国を含む世界中の放射光施設を利用してきました。世界の放射光施設はいずれも「利用料」という直接的収益を生み出すために作られたものではありません。これらの施設が生み出す「利益」は人類共通の財産としての基礎科学研究の成果です。
基礎生命科学における研究は、環境問題、エネルギー問題、新感染症、食糧問題、老齢化対策など、人類の抱える多くの問題の解決に突破口を与える可能性を秘めております。しかし、これが実現するには長期的な展望に立った国家的な施策が必要です。大学や研究機関の運営費交付金、競争的資金制度、ポスドク支援制度なども、この長期的な目標の達成を支えるために不可欠なものです。それに加えて、中・長期的国家戦略としての科学技術の強化と、そのための若手人材育成強化など、我が国の将来への投資という極めて重要な展望に立ち、文部科学大臣殿、副大臣殿、政務官殿におかれましては、先端科学技術の基幹ツールとしての SPring-8 の共同利用のための運転・維持管理に支障がないよう、十分な予算措置をされることを強く要望する次第です。
日本蛋白質科学会会長 兵庫県立大学特任教授 月原冨武
日本生物物理学会会長 名古屋大学教授 曽我部正博
日本結晶学会会長 いわき明星大学教授 竹中章郎