The 2nd PRICPS 若手支援を受けた参加者の報告
オーストラリアのケアンズ(Cairns)で開催された第2回環太平洋蛋白質科学国際会議(The 2nd PRICPS:6月22日〜26日)に参加した以下の6名の若手の方に,若手参加支援(交通費として15万円を補助)をいたしました.学会参加報告書をニュースレターとして掲載いたします。
- 村木 則文(東京大学)
- 蝦名 鉄平(東京農工大学)
- 大友 秀明(創価大学)
- 小野 弥子(東京都臨床医学総合研究所)
- 小山 傑(東京都臨床医学総合研究所)
- 平野 篤(筑波大学)
2nd PRICPS 参加報告
東京大学総合文化研究科
村木 則文
6月22日から26日にかけてオーストラリア・ケアンズで開催された2nd PRICPS に参加した。6月は南半球では冬にあたるが、ケアンズは南回帰線に近い熱帯にあり、日本の初夏のような陽気で快適に過ごすことができた。学会期間中、晴天に恵まれたことも幸いだった。ここでは、結晶構造解析の発表を中心に報告したいと思う。
ケアンズは思ったよりも小さな街で、会場となった Convention Center は街の中心から外れた海沿いにあった。初日は朝から膜タンパク質の Workshop が続き、Opening ceremony 後に、結晶構造解析における位相計算ソフト Phaser の開発者の一人である Randy Read 博士の Plenary Lecture があった。今回の PRICPS は AOHUPO との共同開催ということもあり、発表者・聴衆ともにプロテオーム分野の研究者が多い中で、構造解析ソフトのセッションはある意味異色だった。博士は分子置換法の基礎から始め、Phaser の特徴である Maximum Likelihood 法については、サイコロを例にして丁寧に説明され、専門外の聴衆にも非常にわかりやすくまとめられていたように思う。位相計算ソフトの開発はもちろん、CPU の向上や構造解析例の増加によって、分子置換法による解析例は急増しており、「『1985年まではコンピュータは天気予報できなかった』と言われるが、『2006年まではコンピュータは分子モデルを予想できなかった』と言えるだろう」という博士の言葉が印象深かった。
2日目は、日本の JST/CREST の主催する講演が続いた。午後のポスターセッションでは、私を含め約60名が発表した。ポスター会場に使われたホールは60名が発表するのに十分な広さがあったものの、聴衆者は少なかった。多くの海外の研究者との活発な議論を期待していただけに非常に残念でならないが、セッションの時間を超えて説明を聞いて下さった方もおり、有意義であったと感じている。
構造生物学のセッションでは、Whisstock 博士の MACPF の構造解析の講演があった。MACPF はバクテリアやウイルスに感染した細胞の膜に pore を形成する毒素タンパク質であり、水溶性と膜貫通性という二面性をもつタンパク質である。立体構造から既知の細胞溶解毒素 CDC に類似することが明らかとなり、複雑な pore 形成メカニズムも提唱された。pore 形成時のタンパク質間の相互作用などは未解明の部分もあり、今後の研究成果も注目される。
最終日には参加者が減り、中止になった発表も目立った。その一方で、プログラムには掲載されていないジヒドロジピコリン酸合成酵素 (DHDPS) の構造解析の講演があった。ホモ二量体・四量体形成に関わるアミノ酸の変異導入と構造解析をもとに、相互作用面の分析から分子進化にまで議論を発展させており、タンパク質構造解析の有用性と可能性を改めて感じさせられる報告だった。
ここでは紹介しなかったが、アミロイドや病原菌プロテオミクスなど、国内外の多分野の研究に触れることができ、非常に貴重な経験となった。科学英語やプレゼンテーション能力の向上に努め、今後も国際学会に参加していきたいと感じている。
AOHUPO & PRICPS 参加記
東京農工大学大学院 博士課程後期 生命工学専攻 黒田研究室
蝦名 鉄平
この度、蛋白質科学会より旅費支援を受け、オーストラリアはケアンズにて開催された The Joint 4th AOHUPO(Asian Oceania Human Proteome Organisation)and 2nd PRICPS(Pacific Rim International Conference on Protein Science)へ参加しました。日程は6月22日より5日間、初日は参加者が少なく、若干小規模な会議になる事を予感させたのですが2日目以降には多くの参加者で会場が賑わう結果となり、若干ほっとした事を記憶しています。初日は日曜日だったため参加者が少なかったのではないかと思います。このあたり、海外と日本の環境の違いを感じました。仕事は「Week day only」のようです。
2日目以降は口頭発表に加え、ポスター発表も行われました。私を含めた学生組は大部分が2日目のポスターの担当になっていたようで、近場の学生同士、和気藹々としながら発表をこなしていました。また、教授陣もかなり積極的で、自分のラボの学生が発表していると後ろから補足説明を始めてみたり、学生が暇を持て余せば客寄せを始めたりするなど、日本の学会ではなかなか見る事のできない光景を目の当たりにし、驚きと共に感心を覚えました。しかし、教授が立ち去ればそこは学生。「余計な事はしないで欲しい」と愚痴をこぼすのは万国共通なのかもしれません。
今回の国際会議は私にとって初の海外における学会発表の場であり、日本とは様相の異なる環境の中で非常に多くの事を学び、経験する事ができました。また、シンポジウムやワークショップの内容もすばらしい物が多く、全日程を通して良い雰囲気の中、楽しく濃密な時間を過ごす事ができました。
最後になりましたが、この様な貴重な機会を与えてくださった蛋白質科学会会長・月原冨武先生をはじめとする学会役員の先生方、蛋白質科学会会員の皆様、また、学会会場でお世話になった先生、先輩方に厚く御礼申し上げます。
PRICPS 参加報告書
創価大学大学院 工学研究科 生命情報工専攻
大友 秀明
6月22日から26日にかけてケアンズで行われた環太平洋蛋白質科学国際会議に出席しました。
初日の22日は、ポスター発表はなく口頭発表のみでした。初日の発表では、ケンブリッジ大学の Randy Read 博士が発表していた X 線結晶構造解析の分子置換法についての発表が興味深い内容でした。
二日目の23日に Crystal Structure of A Chimeric β-lactoglobulin, Gyuba というタイトルでポスター発表しました。私の発表は、ウシβラクトグロブリン(BLG)とウマβラクトグロブリン(ELG)は、アミノ酸相同性が57%であるが、BLG がダイマーとして存在する一方で、ELG はモノマーとして存在することに注目し、その違いがどのような原因で引き起こされるかを調べるという内容で行いました。発表は1時間くらいでしたが、多くの人にポスター発表を聞いていただき、意見を交わすことができました。ポスターを見にきていただいた方々は、今回私の研究で作製したキメラタンパク質である Gyuba に興味をもっていただいたようで、このようなキメラを作製した理由や、インターフェイスのアミノ酸配列、また、安定性が低い Gyuba が結晶化し、BLG とほぼ同じ主鎖骨格であることについての質問やコメントをいただきました。また、ポスターを見に来ていただいた方々は、初日に発表していた Randy Read 博士や、このときはわかりませんでしたが、24日に口頭発表していたカンタベリー大学の Juliet Gerrard 博士など、ほとんどが外国人研究者でした。このように外国人と話す機会は国際学会でしか体験できないことなので、とても貴重な経験ができたと感じました。発表以外の時間も、Innovative Protein Science や Developments in Structural Biology というセッションが自分の研究にも近い内容で、とてもいい勉強になりました。
三日目から最終日は自分の発表が終わったということもあり、落ち着いて、集中して他の人たちのポスター発表、口頭発表を聞くことができました。ポスター発表は全部で約150と少なく、少し残念でしたが、私は最近アミロイド形成に興味があったので、リゾチウムのアミロイド形成についてのポスターなどが印象に残りました。口頭の発表では Macromolecilar Molecules and Interaction や Protein Dynamics、Amyloid Protein などについて興味深い内容の発表があり、勉強になりました。また、企業のセッションでは Bruker や Shimadzu などの企業が最新の技術を紹介しており、最新の技術について学ぶことができました。
五日間、英語でのコミュニケーション、研究について、とてもいい経験をすることができました。
学会参加報告書
東京都臨床医学総合研究所
小野 弥子
2008/06/22〜26に Cairns(豪)で開催された第2回蛋白質科学国際会議(2nd PRICPS/ 4th AOHUPO)に参加いたしました。ちょうど一週間前に船堀では日本蛋白質科学会の年会があり、一般的な protein science というので区切るとどんな雰囲気の学会になるのかを、勝手に予想練習したつもりだったのですが、海外での学会になるとこれまた様子が違うのだなぁと(少し偏った自分の学会参加歴に照らし合わせてですが)思いました。現地に着く前に目にしたプログラムでは、方法論や測定系の原理を扱ったものが多いような印象を受けました。確かに企業が参加しているセクションでは各社の質量分析装置の長所(短所)・特徴を宣伝しているものが多く、各製品のどこがどうちがうのか実際に聴けるのは面白い、と思ったのですが、日頃、日本語でも使わない類の文章ばかりだったので、そのまま理解できるか(×)→日本語に訳せるか(△)→日本語だったら分るか(?)というさみしい思いと会場の強力なクーラーに(南半球の暦では冬なのに)耐えてました。
乱暴ですが、タイトルに 1) ”proteome” 2) ”structure”が入っているものと、3) それ以外のもの、と区分して感想をまとめてみました。1) は、結論に至ったあとのその後までを組織的に実践する過程で、動機に医学的な色合いが濃いものとより基礎生物学的な色合いが濃いものとで、”網羅性“のニュアンスが違うように感じました。2) は、構造から機能が説明されると説得力があって面白かったのですが、”構造“を示すために使われる”手法“が何を意味するかに注目した発表も、それぞれの違いは分らないなりに興味深かったです。3) は、目的を達成できるシステムを作るために、存在する試薬・技術の動作原理を理解した上でうまく組み立てる、というのができている!と思って見習おうと思うものがありました。
大学院修了時、(指導教官の先生は一例としてあげられただけなのかも)専門を記入する欄には「タンパク質科学」と書くことにしました。今回、そのままその言葉を冠している学会に初めて参加し、それで良いのか悪いのか、考えてみる良い機会になりました。上の 1) 〜 3) は、いずれもが確かに蛋白質科学っぽいです。自分では、あるタンパク質(プロテアーゼ‐カルパイン!)について、1) 〜 3) に分類できる観点で、少しずつ研究しているという感じにしたいと思っています。そのためには、今回のような学会に行って門外漢だと思ってしまうことのないように、目先の実験操作だけではなく関わる手法や機器の理論・原理を手短に説明できる人になりたいと、痛切に感じました。
The Joint 4th AOHUPO (Asian Oceania Human Proteome Organisation) and 2nd PRICPS (Pacific Rim International Conference on Protein Science), Cairns Convention Centre 22nd- 26th June 2008 参加報告書
東京都臨床医学総合研究所
小山 傑
去る6月22日から26日、オーストラリアのケアンズにて開催された、第2回環太平洋蛋白質国際会議(PRICPS)/第4回アジアオセアニアヒトプロテオミクス国際会議(AOHUPO)に参加させて頂きました。会期中、約100題のシンポジウムと約130題のポスターセッションがありましたが、いずれも大変な盛り上がりを見せていました。大半が構造解析やプロテオーム解析に関するもので、企業による、関連機器、ツールの宣伝も盛んに行われていたのが特徴的でした。個人的には、MS イメージングを用いた解析や、血漿中の微量分子やリン酸化タンパク質を濃縮し、その検出効率を高めるという内容に特に興味をひかれました。また、プロテオーム解析の複数の手法を比較し、同定されるタンパク質について、それらの手法の間でどの程度の差があるかという話も度々出てきており、非常に参考になりました。プロテオームのデータベース整備に関する話も何題かあり、プロテオーム解析技術の発展に伴い、このようなデータベースの持つ重要性が増していくのだろうと感じました。今後、これらのプロテオーム技術・環境がますます進歩し整備され、幅広く実用化されていくことで、薬物動態の解析や各種病態の新規有用マーカー分子の同定など、医療・創薬の分野に大いに貢献していくことが期待されました。
私自身は、「Analysis of Sequence Specificity for Calpain by Monitoring Cleavage of Multiple Peptides Using iTRAQTM and 2D-LC-MS/MS」というタイトルでポスター発表を行いました。英語力の不足から、自分の考えのごく一部しか伝えられませんでしたが、実験系の面白さが評価されたのか、幸いにもポスター賞を頂くことが出来ました。まだまだデータも不足していますし、実験系の改良も必要と思われますので、今後はこれを励みに更に解析を重ねていきたいと考えています。
今回、このような構造解析・プロテオーム解析に重点の置かれた学会に参加出来たことは、普段、一つの分子に注目してその機能解析を行っている身にとって、とても新鮮で、刺激的な体験でした。また、これらの分野の最新の動向を知ることが出来たことも、非常に有意義でした。一方で、その場で話を聞いただけでは理解しきれない話も多々あり、自身の知識、英語力の無さも痛感させられました。この学会で得た経験・知識を今後活かしていくとともに、これからはより視野を広げ、幅広い知識を身に付けていくよう努力しようと思います。
第2回環太平洋蛋白質科学国際会議(PRICPS)/第4回アジアオセアニアヒトプロテオミクス国際会議(AOHUPO)参加報告書
筑波大学大学院数理物質科学研究科
平野 篤
2008年6月22日(日)から26日(木)にかけて、第2回環太平洋蛋白質科学国際会議(PRICPS)/第4回アジアオセアニアヒトプロテオミクス国際会議(AOHUPO)がオーストラリアのケアンズで開催されました。私は日本蛋白質科学会の若手旅費支援を頂いて参加しました。AOHUPO 側では主に、プロテオミクスの技術革新に関して、PRICP では生体分子構造と生命現象との関連に関しての発表が多く見られました。
AOHUPO では、例えばマウス肝臓をモデルとしたプロテオミクスにおける二次元電気泳動や質量分析、溶液などの技術的知見が蓄積されて成熟してきており、これまでの技術革新の話題が発表されました。今後は蛋白質の機能を解明することが重要とされます。
PRICP では、膜蛋白質やアミロイドなどの蛋白質の構造や物性に重点をおいて議論されました。蛋白質の機能を分子レベルで解析した結果から、蛋白質が生命現象を担う原理を垣間見ることができました。
今後の蛋白質科学の課題は、個々の蛋白質の構造や機能がどのようにプロテオミクスと結び付くかにあります。例えば、プロテオミクスによって発現異常を同定し、それに関わる蛋白質の機能解析が行われれば、細胞レベルでの生命現象が分子レベルで理解されていきます。今回の合同国際会議では、両者の得意とする分野が一同に介したことで、別々に発展してきたプロテオミクスと構造生物学が融合し、近い将来に魅力ある新しい蛋白質科学の分野が開かれるのを実感しました。また、国際会議を通してアジア・オセアニア圏での蛋白質科学の独自性を発展させることも魅力ある研究活動につながるのではないかと感じました。
今回、蛋白質科学会とプロテオミクスが合同開催され、多くの情報を交えられたことは非常に有意義でした。しかしながら、本会議では全体的にプロテオミクス研究者が多く参加したように思われました。また、国内会議に比べて参加人数が少ないことも印象的でした。今後、相互に研究水準を向上させるためにも、次の時代に向けた大きな流れを作る魅力あるシンポジウムを開催するなどの工夫が必要だと感じました。
大学院生の時に国際学会で発表する機会はなかなかありません。今回初めて参加して、自身の研究のレベルを実感できたのと同時に、学生同士の研究交流と国際交流を深めるチャンスを学会から頂けたことを大変感謝します。今後も多くの学生および若手研究者が国際研究交流を深めることができ、また若手研究者が積極的に参加する魅力ある国際会議へ発展させるためにも、若手旅費支援と国際会議の合同開催の継続を期待致します。