組換え蛋白質の調製/ 酵母による発現/ 出芽酵母編(改訂)

独立行政法人酒類総合研究所・醸造技術応用研究部門


  • キーワード出芽酵母組換えタンパク質プラスミド形質転換
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概要

出芽酵母を用いた蛋白質生産のプロトコールとして、分泌型蛋白質の発現とその精製方法を記した。

イントロダクション

出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を利用した組換えタンパク質発現系は、大腸菌を主に取り扱うタンパク質研究者からは、少し敷居が高いように感じるかもしれないが、S. cerevisiae は真核生物のモデル生物として古くからツールとしても使用されており、またいろいろなキットも市販されており、そのとり扱いについては特別難しいことは無いのではないかと思う。真核生物であるから、細胞内には核、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、液胞などの細胞小器官を持ち、それら包括する細胞膜の外側に強固な細胞壁を持つ。

目的のタンパク質を生産させる場合、小胞体・ゴルジ体・分泌小胞を経由し分泌生産できることや、分泌タンパク質は特定の配列情報に基づき糖鎖による修飾が行われること、また、その分泌過程でフォールディングしないタンパク質はクオリティー・コントロール(品質管理)機構により分解されてしまうことなどが、大腸菌での発現と大きく異なる点であろうか。また、細胞小器官を有することから、それら各器官で働くタンパク質をそれに対応する酵母遺伝子破壊株を用いて発現させ、機能を探る研究なども可能である。最初に全ゲノムが解読された真核生物ということから、それら遺伝情報を利用したさまざまなツールも開発されており、全遺伝子のうち非必須遺伝子を1つずつ破壊した破壊株ライブラリなども利用可能である。このように、出芽酵母を用いたタンパク質生産には細胞外に分泌生産する方法と、各器官特異的発現などの細胞内での生産があるが、本プロトコールでは前者の分泌生産について紹介する。

プラスミドは、まずは大腸菌を用いて作製し、続いてプラスミドを酵母に導入するため、大腸菌よりは少し手間ではあるが、その後のフォールディング作業が必要でないことや、分泌生産の場合、遠心分離にて回収した培養液上清には目的タンパク質以外の夾雑タンパク質が少ないのも利点である。

目的プラスミドを導入した形質転換体作製に2日程度。それらが生育してくるまで2,3日。目的タンパク質を得るための培養は、前培養を含めて5日程度かかる。ほとんどは生育のためなどの待ち時間なので、計画的に実行すれば他の実験と平行して実施できる。

目的

本プロトコールでは、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)YPH499 株を目的タンパク質遺伝子を組み込んだプラスミド pG-1 にて形質転換し、目的タンパク質を培養液中に分泌生産させる場合について解説する。プラスミドの選択や宿主株の選択については、工夫とコツや参考文献(1~4)を参照されたい。

pG-1について(参考文献6)
プロモーター;TDH3(TDH3 プロモーター下流に目的タンパク質遺伝子を組み込む)
選別;アンピシリン(大腸菌)トリプトファン要求性(酵母)
複製;pUC ori(大腸菌)2μ(酵母)

使用する装置・器具・試薬等

装置・器具

  • 恒温振とう培養器 200 mL~3 L 三角フラスコが回転振とうできるもの(各社)
  • 冷却遠心機(各社)
  • 分光光度計
  • オートクレーブ(各社)
  • バッフルフラスコ
  • インキュベーター(30℃)
  • クリーンベンチ
  • エレクトロポーレーション装置(Gene Pulser™(BIO-RAD 社)など)

試薬

  • 1 M Sorbitol(事前に氷で冷やしておくと良い)
  • 滅菌水(事前に氷で冷やしておくと良い)

使用する培地

YPD 培地

Yeast extracts 10 g/L
Peptone 20 g/L
Dextrose 20 g/L

SD(-Trp) 培地(Synthetic Dextrose 培地+(-Trp DO supplement))

Bacto™ Yeast Nitrogen Base w/o amino acids 6.7 g/L
Dextrose 2 g/L
-Trp DO supplement 0.74 g/L

Dropout(DO) supplement は各種アミノ酸や核酸を含んだ混合物であり、ある特性成分のみが欠失したものが市販されている。アミノ酸要求性の相補することをマーカーにする場合、Yeast Nitrogen Base w/o amino acids との組み合わせで使用する(クローンテック社から1–3種の栄養成分が欠失したものが市販されている)。

寒天プレートを作製する場合は、上記組成に加え1.5~2.0%の寒天を加えオートクレーブする。

使用する酵母の株

YPH499 株は、ウラシル(ura3)、トリプトファン(trp1)、ヒスチジン(his3)、リジン(lys2)要求性であるので、それら破壊された遺伝子を相補する遺伝子マーカーを保有するプラスミドにて形質転換された酵母は、それら要求性を相補されるので、そのアミノ酸欠損培地での生育が可能となる。使用菌株は、使用するプラスミドとの組み合わせで選択すればよい。また、薬剤耐性のマーカーを使用する場合は栄養要求性の無い酵母株の使用が可能である。上記プロトコールでは導入するプラスミド pG-1 が TRP1 遺伝子を持つため、選択培地ではトリプトファン欠損培地を使用している。実験室でよく使われる菌株は Saccharomyces Genome Database(参考文献7)にリストアップされているので参考にしていただきたい。

使用するプラスミド

目的タンパク質を発現させるために、どのプラスミドを使用するかが最初の選択となるが、上記プロトコールでは解糖系酵素をコードしている TDH3(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)のプロモーターを利用した pG-1 を示している。このプロモーターを用いた場合解糖系が動く条件下で構成的にプロモーター下流の目的タンパク質のmRNAの転写が行われる。その他よく使われるプロモーターとしては、ガラクトースにより誘導される GAL1,GAL10 プロモーターや PHO5,ADH1 プロモーターなどがある。使用するプロモーターがどの条件で働くか理解して選択すると良い。現在市販のベクターとしては、ThermoFisher SCIENTIFIC 社(旧 Invitrogen 社)の GAL1 プロモーターを有する各種プラスミド(pYES2 など)や、アジレントテクノロジー社(旧 Stratagene 社)から2つのタンパク質を同時に発現できるプラスミド(pESC など)、TaKaRa 社からは薬剤(オーレオバシジン)耐性を選択マーカーとしたプラスミドなどがある。タンパク質研究用としては多コピー型の 2 μm プラスミド複製起点を持つものを選択すればよいと思うが、場合によっては低コピー型のものやゲノム組み込み型のものを選択しても良い。

実験の流れ

  • (形質転換体の作製)
    • 第1日
      • 1. 酵母の前培養
      • 2. 選択培地の作製
    • 第2日
      • 3. 目的プラスミドの酵母への形質転換
  • (酵母の培養・タンパク質の分泌生産)
    • 第1日
      • 1. 液体培地への植菌(前培養)
      • 2. 本培養の準備
    • 第2日
      • 3. 本培養開始とタンパク質発現
    • 第3–6日
      • 4. 培養液の回収・遠心分離

実験の詳細

第1日

1. 酵母の前培養

YPH499 株を 5 ml YPD 培地にて30℃、オーバーナイトで前培養を行う。翌日のコンピーテントセル作製用の培地として、50 ml の YPD 培地を 200 ml バッフルフラスコに作製しておく。

2. 選択培地の作製

形質転換体はトリプトファン要求性が相補されるのでSD(-Trp) 培地にて生育可能となる。

第2日

3. 目的プラスミドの酵母への形質転換

エレクトロポーレーション法にてプラスミドの導入を行う。50 ml YPD に 10 μl の前培養液(YPD)を植菌し、30℃で OD600=1.3〜1.5 となるまで培養を行う。培養液を4℃、6000rpm で8分間遠心を行い、菌体を回収する。回収した菌体を 50 ml の滅菌水に懸濁し、再度4℃、6000rpm で8分間遠心を行い、菌体を回収する。この操作を2度行い、その後回収した菌体を 4 ml の cold 1 M Sorbitol に懸濁し、4℃、6000rpm で8分間遠心を行い、菌体を回収する。回収した菌体を 200 μl の cold 1 M Sorbitol に懸濁する。以上の操作はすべて氷上で行う。

0.2 cm 幅のエレクトロポーレーションキュベット(BIO-RAD 社)に菌体懸濁液 100 μl と Plasmid DNA 10 μl(5〜100 ng)を加えて氷上で5分間インキュベートした後、Gene Pulser™(BIO-RAD 社)にセットし、1.5 kV、25 μF、200 Ω の条件でエレクトロポーレーションを行う。その後、すぐに 1 ml の cold 1 M Sorbitol を加えピペッティングにより混合し、SD(-Trp) 寒天プレートに塗布し、30℃でコロニーが形成されるまでインキュベートを行う。得られたコロニーは、SD(-Trp) 寒天プレートに植え継いでおく。

(酵母の培養・タンパク質の分泌生産)

第1日

1. 液体培地への植菌(前培養)

形質転換体(酵母)を選択液体培地(SD(-Trp))に植菌し、30℃で1~2日間振とう培養を行う。本培養のスケールの 1/20 量程度を目安に前培養を行うと良い。

2. 本培養の準備

本培養の培地の作成。本培養に用いる YPD 培地を作成し、滅菌(オートクレーブ)しておく。目的に応じて培養規模を設定する。

第2日

3. 本培養開始とタンパク質発現

YPD培地に前培養液を加え、30℃にて振とう培養を行う。培養液はバッフルフラスコ全容量の4割程度とし、140rpmで培養する。

第3–6日

4. 培養液の回収・遠心分離

培養開始後、経時的(1日1回程度)に培養液を採取し目的タンパク質の発現を確認する(活性測定やSDS-PAGE)。通常は、分泌タンパク質が培養液に蓄積していくが不安定なタンパク質の場合培養液中の酵素量が減る場合も有るので、1度どのタイミングで回収するのが良いか確認しておくと良い。培養液は遠心分離し、培養液上清を回収する。少量(~2 ml)でのサンプリングでは、14000rpm で5分間遠心分離し上清における目的タンパク質の生産を調べる。最終的な回収では、遠心分離(例えば 500 ml/bottle 程度であれば 4000rpm,15~30分)後、0.45 μm のフィルター(Durapore membrane,millipore 社)でろ過し、その後必要であれば濃縮作業や精製過程に移る。菌体はオートクレーブや薬品処理により不活化し廃棄する。

出芽酵母を用いた実験について、さらに詳しく知りたい方は、参考文献(1~5)に詳細な手順や原理が記されているので参考にしていただきたい。

実験上の工夫とコツ

形質転換

エレクトロポーレーション法を用いる場合、導入するプラスミドを含む溶液は脱塩しておく必要がある。目的プラスミドを通常どおり大腸菌を用いて作成した後、酵母の形質転換を行うこととなる。形質転換法としてはエレクトロポーレーション法やリチウム法などがある。上記プロトコールではエレクトロポーレーション法を紹介したが、装置が無い場合は、リチウム法などを用いると良い。最近では、YPD培地で終夜培養した酵母を利用した形質転換キット(富士フィルム和光純薬;S. cerevisiae Direct Transformation Kit Wako)が販売されている。形質転換の方法は、参考文献(1、3~5)等に詳しく記載されているので参考にしていただきたい。形質転換するプラスミドがゲノム組み込み型の場合は事前にプラスミドを制限酵素で処理し直鎖状にしておく。

培養1

上記プロトコールでは培養温度は30℃としたが、低温で培養したほうが発現するとの報告もあるので、目的タンパク質によっては25℃や20℃での培養も検討するとよい。

培養2

タンパク質の分泌生産には、YPD 培地を利用している。プラスミドの脱落の可能性があるが、選択培地である SD 培地を基本としたものよりも発現量は多くなる傾向にある。

培養3

出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)によるエタノール発酵は通常嫌気的条件で行うが、タンパク質生産などは好気的条件で行うと良い。培養時の容器はバッフルフラスコや坂口フラスコを用いることが多い。また、通気性の良いシリコン栓や綿栓を使用する。

シグナル配列

培地中に分泌生産させるタンパク質は N 末端に分泌シグナル配列を有する。本来そのタンパク質が持つシグナル配列がそのまま利用できる場合もあるが、そうでない場合はαファクターのプレプロ配列など実績のあるシグナル配列をつないだ形で設計しプラスミドに導入するとよい。

菌体内タンパク質

本プロトコールでは分泌生産を紹介したが、菌体内タンパク質の抽出などについては下記参考文献等を参考にしていただきたい。

参考文献等

  1. 酵母遺伝子実験マニュアル、大矢一監訳、丸善 (2002)
  2. 酵母の遺伝子工学、水永武光・大隈良典共訳、丸善(宝酒造)(1995)
  3. 組換えタンパク質生産法、塚越規弘編著、学会出版センター;Ⅳ章 酵母(衣田幸司)57–78 (2001)
  4. 酵母分子遺伝学実験法、大島泰治編著、学会出版センター;Ⅷ章 宿主・ベクター系と形質転換(原島俊)119–138 (1996)
  5. Current Protocols in Molecular Biology, 13 Saccharomyces cerevisiae, John Wiley and Sons, Inc. (1987–2007)
  6. M. Schena, D. Picard, K. R. Yamamoto, Methods in Enzymology, 194, 389–398 (1991)
  7. Saccharomyces Genome Database; http://www.yeastgenome.org/

変更履歴

変更日 変更内容 変更前の PDF
2020/05/12 著者所属の情報の更新、pp.3使用する装置・器具・試薬等|メーカー情報の更新、pp.7実験上の工夫とコツ|メーカー情報の更新 変更前の PDF

概要

出芽酵母を用いた蛋白質生産のプロトコールとして、分泌型蛋白質の発現とその精製方法を記した。

イントロダクション

出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を利用した組換えタンパク質発現系は、大腸菌を主に取り扱うタンパク質研究者からは、少し敷居が高いように感じるかもしれないが、S. cerevisiae は真核生物のモデル生物として古くからツールとしても使用されており、またいろいろなキットも市販されており、そのとり扱いについては特別難しいことは無いのではないかと思う。真核生物であるから、細胞内には核、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、液胞などの細胞小器官を持ち、それら包括する細胞膜の外側に強固な細胞壁を持つ。

目的のタンパク質を生産させる場合、小胞体・ゴルジ体・分泌小胞を経由し分泌生産できることや、分泌タンパク質は特定の配列情報に基づき糖鎖による修飾が行われること、また、その分泌過程でフォールディングしないタンパク質はクオリティー・コントロール(品質管理)機構により分解されてしまうことなどが、大腸菌での発現と大きく異なる点であろうか。また、細胞小器官を有することから、それら各器官で働くタンパク質をそれに対応する酵母遺伝子破壊株を用いて発現させ、機能を探る研究なども可能である。最初に全ゲノムが解読された真核生物ということから、それら遺伝情報を利用したさまざまなツールも開発されており、全遺伝子のうち非必須遺伝子を1つずつ破壊した破壊株ライブラリなども利用可能である。このように、出芽酵母を用いたタンパク質生産には細胞外に分泌生産する方法と、各器官特異的発現などの細胞内での生産があるが、本プロトコールでは前者の分泌生産について紹介する。

プラスミドは、まずは大腸菌を用いて作製し、続いてプラスミドを酵母に導入するため、大腸菌よりは少し手間ではあるが、その後のフォールディング作業が必要でないことや、分泌生産の場合、遠心分離にて回収した培養液上清には目的タンパク質以外の夾雑タンパク質が少ないのも利点である。

目的プラスミドを導入した形質転換体作製に2日程度。それらが生育してくるまで2,3日。目的タンパク質を得るための培養は、前培養を含めて5日程度かかる。ほとんどは生育のためなどの待ち時間なので、計画的に実行すれば他の実験と平行して実施できる。

目的

本プロトコールでは、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)YPH499 株を目的タンパク質遺伝子を組み込んだプラスミド pG-1 にて形質転換し、目的タンパク質を培養液中に分泌生産させる場合について解説する。プラスミドの選択や宿主株の選択については、工夫とコツや参考文献(1~4)を参照されたい。

pG-1について(参考文献6)
プロモーター;TDH3(TDH3 プロモーター下流に目的タンパク質遺伝子を組み込む)
選別;アンピシリン(大腸菌)トリプトファン要求性(酵母)
複製;pUC ori(大腸菌)2μ(酵母)

使用する装置・器具・試薬等

装置・器具

  • 恒温振とう培養器 200 mL~3 L 三角フラスコが回転振とうできるもの(各社)
  • 冷却遠心機(各社)
  • 分光光度計
  • オートクレーブ(各社)
  • バッフルフラスコ
  • インキュベーター(30℃)
  • クリーンベンチ
  • エレクトロポーレーション装置(Gene Pulser™(BIO-RAD 社)など)

試薬

  • 1 M Sorbitol(事前に氷で冷やしておくと良い)
  • 滅菌水(事前に氷で冷やしておくと良い)

使用する培地

YPD 培地

Yeast extracts 10 g/L
Peptone 20 g/L
Dextrose 20 g/L

SD(-Trp) 培地(Synthetic Dextrose 培地+(-Trp DO supplement))

Bacto™ Yeast Nitrogen Base w/o amino acids 6.7 g/L
Dextrose 2 g/L
-Trp DO supplement 0.74 g/L

Dropout(DO) supplement は各種アミノ酸や核酸を含んだ混合物であり、ある特性成分のみが欠失したものが市販されている。アミノ酸要求性の相補することをマーカーにする場合、Yeast Nitrogen Base w/o amino acids との組み合わせで使用する(クローンテック社から1–3種の栄養成分が欠失したものが市販されている)。

寒天プレートを作製する場合は、上記組成に加え1.5~2.0%の寒天を加えオートクレーブする。

使用する酵母の株

YPH499 株は、ウラシル(ura3)、トリプトファン(trp1)、ヒスチジン(his3)、リジン(lys2)要求性であるので、それら破壊された遺伝子を相補する遺伝子マーカーを保有するプラスミドにて形質転換された酵母は、それら要求性を相補されるので、そのアミノ酸欠損培地での生育が可能となる。使用菌株は、使用するプラスミドとの組み合わせで選択すればよい。また、薬剤耐性のマーカーを使用する場合は栄養要求性の無い酵母株の使用が可能である。上記プロトコールでは導入するプラスミド pG-1 が TRP1 遺伝子を持つため、選択培地ではトリプトファン欠損培地を使用している。実験室でよく使われる菌株は Saccharomyces Genome Database(参考文献7)にリストアップされているので参考にしていただきたい。

使用するプラスミド

目的タンパク質を発現させるために、どのプラスミドを使用するかが最初の選択となるが、上記プロトコールでは解糖系酵素をコードしている TDH3(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)のプロモーターを利用した pG-1 を示している。このプロモーターを用いた場合解糖系が動く条件下で構成的にプロモーター下流の目的タンパク質のmRNAの転写が行われる。その他よく使われるプロモーターとしては、ガラクトースにより誘導される GAL1,GAL10 プロモーターや PHO5,ADH1 プロモーターなどがある。使用するプロモーターがどの条件で働くか理解して選択すると良い。現在市販のベクターとしては、ThermoFisher SCIENTIFIC 社(旧 Invitrogen 社)の GAL1 プロモーターを有する各種プラスミド(pYES2 など)や、アジレントテクノロジー社(旧 Stratagene 社)から2つのタンパク質を同時に発現できるプラスミド(pESC など)、TaKaRa 社からは薬剤(オーレオバシジン)耐性を選択マーカーとしたプラスミドなどがある。タンパク質研究用としては多コピー型の 2 μm プラスミド複製起点を持つものを選択すればよいと思うが、場合によっては低コピー型のものやゲノム組み込み型のものを選択しても良い。

実験の流れ

  • (形質転換体の作製)
    • 第1日
      • 1. 酵母の前培養
      • 2. 選択培地の作製
    • 第2日
      • 3. 目的プラスミドの酵母への形質転換
  • (酵母の培養・タンパク質の分泌生産)
    • 第1日
      • 1. 液体培地への植菌(前培養)
      • 2. 本培養の準備
    • 第2日
      • 3. 本培養開始とタンパク質発現
    • 第3–6日
      • 4. 培養液の回収・遠心分離

実験の詳細

第1日

1. 酵母の前培養

YPH499 株を 5 ml YPD 培地にて30℃、オーバーナイトで前培養を行う。翌日のコンピーテントセル作製用の培地として、50 ml の YPD 培地を 200 ml バッフルフラスコに作製しておく。

2. 選択培地の作製

形質転換体はトリプトファン要求性が相補されるのでSD(-Trp) 培地にて生育可能となる。

第2日

3. 目的プラスミドの酵母への形質転換

エレクトロポーレーション法にてプラスミドの導入を行う。50 ml YPD に 10 μl の前培養液(YPD)を植菌し、30℃で OD600=1.3〜1.5 となるまで培養を行う。培養液を4℃、6000rpm で8分間遠心を行い、菌体を回収する。回収した菌体を 50 ml の滅菌水に懸濁し、再度4℃、6000rpm で8分間遠心を行い、菌体を回収する。この操作を2度行い、その後回収した菌体を 4 ml の cold 1 M Sorbitol に懸濁し、4℃、6000rpm で8分間遠心を行い、菌体を回収する。回収した菌体を 200 μl の cold 1 M Sorbitol に懸濁する。以上の操作はすべて氷上で行う。

0.2 cm 幅のエレクトロポーレーションキュベット(BIO-RAD 社)に菌体懸濁液 100 μl と Plasmid DNA 10 μl(5〜100 ng)を加えて氷上で5分間インキュベートした後、Gene Pulser™(BIO-RAD 社)にセットし、1.5 kV、25 μF、200 Ω の条件でエレクトロポーレーションを行う。その後、すぐに 1 ml の cold 1 M Sorbitol を加えピペッティングにより混合し、SD(-Trp) 寒天プレートに塗布し、30℃でコロニーが形成されるまでインキュベートを行う。得られたコロニーは、SD(-Trp) 寒天プレートに植え継いでおく。

(酵母の培養・タンパク質の分泌生産)

第1日

1. 液体培地への植菌(前培養)

形質転換体(酵母)を選択液体培地(SD(-Trp))に植菌し、30℃で1~2日間振とう培養を行う。本培養のスケールの 1/20 量程度を目安に前培養を行うと良い。

2. 本培養の準備

本培養の培地の作成。本培養に用いる YPD 培地を作成し、滅菌(オートクレーブ)しておく。目的に応じて培養規模を設定する。

第2日

3. 本培養開始とタンパク質発現

YPD培地に前培養液を加え、30℃にて振とう培養を行う。培養液はバッフルフラスコ全容量の4割程度とし、140rpmで培養する。

第3–6日

4. 培養液の回収・遠心分離

培養開始後、経時的(1日1回程度)に培養液を採取し目的タンパク質の発現を確認する(活性測定やSDS-PAGE)。通常は、分泌タンパク質が培養液に蓄積していくが不安定なタンパク質の場合培養液中の酵素量が減る場合も有るので、1度どのタイミングで回収するのが良いか確認しておくと良い。培養液は遠心分離し、培養液上清を回収する。少量(~2 ml)でのサンプリングでは、14000rpm で5分間遠心分離し上清における目的タンパク質の生産を調べる。最終的な回収では、遠心分離(例えば 500 ml/bottle 程度であれば 4000rpm,15~30分)後、0.45 μm のフィルター(Durapore membrane,millipore 社)でろ過し、その後必要であれば濃縮作業や精製過程に移る。菌体はオートクレーブや薬品処理により不活化し廃棄する。

出芽酵母を用いた実験について、さらに詳しく知りたい方は、参考文献(1~5)に詳細な手順や原理が記されているので参考にしていただきたい。

実験上の工夫とコツ

形質転換

エレクトロポーレーション法を用いる場合、導入するプラスミドを含む溶液は脱塩しておく必要がある。目的プラスミドを通常どおり大腸菌を用いて作成した後、酵母の形質転換を行うこととなる。形質転換法としてはエレクトロポーレーション法やリチウム法などがある。上記プロトコールではエレクトロポーレーション法を紹介したが、装置が無い場合は、リチウム法などを用いると良い。最近では、YPD培地で終夜培養した酵母を利用した形質転換キット(富士フィルム和光純薬;S. cerevisiae Direct Transformation Kit Wako)が販売されている。形質転換の方法は、参考文献(1、3~5)等に詳しく記載されているので参考にしていただきたい。形質転換するプラスミドがゲノム組み込み型の場合は事前にプラスミドを制限酵素で処理し直鎖状にしておく。

培養1

上記プロトコールでは培養温度は30℃としたが、低温で培養したほうが発現するとの報告もあるので、目的タンパク質によっては25℃や20℃での培養も検討するとよい。

培養2

タンパク質の分泌生産には、YPD 培地を利用している。プラスミドの脱落の可能性があるが、選択培地である SD 培地を基本としたものよりも発現量は多くなる傾向にある。

培養3

出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)によるエタノール発酵は通常嫌気的条件で行うが、タンパク質生産などは好気的条件で行うと良い。培養時の容器はバッフルフラスコや坂口フラスコを用いることが多い。また、通気性の良いシリコン栓や綿栓を使用する。

シグナル配列

培地中に分泌生産させるタンパク質は N 末端に分泌シグナル配列を有する。本来そのタンパク質が持つシグナル配列がそのまま利用できる場合もあるが、そうでない場合はαファクターのプレプロ配列など実績のあるシグナル配列をつないだ形で設計しプラスミドに導入するとよい。

菌体内タンパク質

本プロトコールでは分泌生産を紹介したが、菌体内タンパク質の抽出などについては下記参考文献等を参考にしていただきたい。

参考文献等

  1. 酵母遺伝子実験マニュアル、大矢一監訳、丸善 (2002)
  2. 酵母の遺伝子工学、水永武光・大隈良典共訳、丸善(宝酒造)(1995)
  3. 組換えタンパク質生産法、塚越規弘編著、学会出版センター;Ⅳ章 酵母(衣田幸司)57–78 (2001)
  4. 酵母分子遺伝学実験法、大島泰治編著、学会出版センター;Ⅷ章 宿主・ベクター系と形質転換(原島俊)119–138 (1996)
  5. Current Protocols in Molecular Biology, 13 Saccharomyces cerevisiae, John Wiley and Sons, Inc. (1987–2007)
  6. M. Schena, D. Picard, K. R. Yamamoto, Methods in Enzymology, 194, 389–398 (1991)
  7. Saccharomyces Genome Database; http://www.yeastgenome.org/

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2020/05/12 著者所属の情報の更新、pp.3使用する装置・器具・試薬等|メーカー情報の更新、pp.7実験上の工夫とコツ|メーカー情報の更新 変更前の PDF

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2021年5月20日 改訂

  1. 著者所属の情報の更新
  2. pp.3使用する装置・器具・試薬等|メーカー情報の更新
  3. pp.7実験上の工夫とコツ|メーカー情報の更新
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