『ライフサイエンス 領域融合レビュー』創刊

ライフサイエンス統合データベースセンター


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情報・システム研究機構 ライフサイエンス統合データベースセンターは、日本蛋白質科学会のほか、日本分子生物学会、日本細胞生物学会、日本植物生理学会との協力により、2012年9月1日、新しいWebコンテンツ「ライフサイエンス 領域融合レビュー」(http://leading.lifesciencedb.jp/)の公開を開始しました。これは、生命科学分野の学問分野・領域を広く総合的にとりあげる日本語による総説(レビュー)を、だれでも自由に閲覧・利用できるよう無料のオンラインジャーナルとして継続的に出版・公開するものです。その領域の研究成果あるいは研究動向についての情報源としてだけでなく、有用なデータベースとしての機能をもはたすことで、サイエンスコミュニティ全体に寄与することを目的としています。

近年の生命科学のいっそうの発展にともない、学術論文の数は急増し、また、学問分野の細分化も進みつつあります。その結果、研究者・学生は自らの専門分野にごく近い領域しかフォローできなくなりつつあります。生命科学全体における最新の知見を得るため、また、原著論文により提供される断片化した大量の情報を整理するため、良質なレビューの重要性はますます増加しています。

とくに専門の学問分野からやや離れた領域に関して手っ取り早く情報を得るには、英語よりも母国語である日本語のほうがはるかにたやすいのは事実でしょう。これまで、日本語によるレビューの出版は、学会誌のほかいくつかの商業誌により担われてきました。とくに、よく編集のされた“良質な日本語コンテンツ”は、これまでおもに出版社が商業出版物として、紙媒体のかたちで発信してきたといえます。しかしながら、おりからの出版不況、また、若者を中心とした出版物離れ・紙媒体離れなどをうけ、“良質な日本語コンテンツ”の提供という点で出版社の機能は失われつつあります。そんななか、新たなメディアであるWeb上において、良質かつ信頼できる日本語コンテンツの提供が求められています。

ライフサイエンス統合データベースセンターは、大学共同利用機関法人として、国内のデータベースを中心にデータベースの統合化と保全に努め、その利便性を高めるための情報技術の開発を行っています。その活動の一環として、良質な日本語コンテンツの作成・整備も進めており、2010年9月には「ライフサイエンス 新着論文レビュー」(http://first.lifesciencedb.jp/)がスタートしました。これは、Nature誌、Science誌、Cell誌などのトップジャーナルに掲載された日本人を著者とする論文について、論文の著者自身の執筆による、専門分野の異なる生命科学研究者にむけた日本語によるレビューを、だれでも自由に閲覧・利用できるようWeb上にて無料で公開するものです。これまでに350以上のレビューを公開しており、また、月間ユニークユーザー数は18,000以上と、非常に多くの方が閲覧しています。

さて、この「新着論文レビュー」はある1本の論文を対象としこれを解説するものですが、これと同様なやり方で、ある学問分野・領域を広く総合的にとりあげる、比較的長いレビューの公開・出版を行えないか、と考えて生まれたのが、今回、新たにスタートする「ライフサイエンス 領域融合レビュー」です。実際の分量として、本文10,000~15,000字、図4~6点を目安としており、これは紙媒体の誌面とすると6~8ページに相当します。執筆者による研究成果だけでなく、国際的な動向までわかるよう、ほかの研究グループの研究もあわせて紹介します。原稿は、1名以上の査読者により査読をうけ、必要に応じ加筆あるいは改稿のうえ原稿受理とします。この「領域融合レビュー」と「新着論文レビュー」は日本語コンテンツとして相互に補完的な性格をもち、その両方が重要であると考えています。

「領域融合レビュー」が対象とする読者としては、広く生命科学全般にかかわる教員・研究者および大学院生・学生を考え、とくに、生命科学における専門の学問分野の異なる人を意識します。つまり、蛋白質科学分野のレビューについて蛋白質の研究者を読者として考えるのではなく、それ以外、たとえば、免疫学や植物科学を研究対象としている人をターゲットとします。逆に、蛋白質を研究している人には、それ以外の研究分野について書かれたレビューを読んでほしく、そのことを強く意識したものとします。そのため、それら専門外の読者におもしろさが伝わるよう、研究の経緯・バックグラウンド、および、将来の展望などを十分に示します。また、初学者の助けとなるよう、とくにイントロダクションおよび参考図書を充実させる予定です。このコンテンツにより、生命科学においてさまざまな研究分野にかかわっている人そして知識の融合が図られることを期待しています。

「領域融合レビュー」は、日本蛋白質科学会ほかいくつかの生命科学系の学会とライフサイエンス統合データベースセンターとの協力により運営されます。それぞれの学会からはその分野を担当する編集委員を推薦いただき、10名程度の編集委員により編集委員会を構成します。この編集委員会は、執筆者・執筆テーマの選定、原稿の査読を担当し、学術面において責任をもちます。一方、ライフサイエンス統合データベースセンターには編集室が設けられ、執筆依頼・原稿受け取りなどの編集事務、原稿整理・図の作製などの編集作業、制作およびWeb上での公開、サーバの維持・管理を担当し、実務面・制作面において責任をもちます。参加する学会は基本的に和文の学会誌をもたない学会であり、その補完になるものとも考えています。

この「領域融合レビュー」は“編集”を重視します。受理した原稿そのままでは、とくに専門外の人が読んでわかりやすいものとはならないのは事実で、実際には、プロの編集者が相当に手をくわえる必要があります。受理された原稿は、よりわかりやすいものとするため、編集室において、用字・用語の統一にくわえて、一文一文を編集者の視点から吟味し大胆に修正します。専門外の読者により理解されるためには、このようなプロセスは必須であると考えます。

これまでの紙媒体は、完全な複製の不可能な“行き止まり”のメディアでした。それに対し、デジタルデータは劣化させることなくコストなしに複製・加工・再利用が可能です。今後、サイエンスにおけるコンテンツは、囲い込んで保護し独占的な利益を生み出すより、コミュニティ全体に公開・共有して広く利益を生み出すようにすべきと考えます。この「領域融合レビュー」では、著作権はそれぞれの著者が保持しますが、クレジットの明記を条件に、転載・改変・再利用(営利目的での二次利用も含め)を自由に行えるものとします。PDF版は自由にダウンロードできます。また、掲載する図については、専門家の手をへてきれいに作り直したうえで、高解像度の図をJPEGファイルとしてダウンロードできるようにしています。

日本蛋白質科学会には、この「領域融合レビュー」の構想の段階から中心としてご協力いただき、また、理事会などにおいて検討のうえ、2012年4月の編集委員会の立ち上げと同時にこのプロジェクトに参画いただきました。編集委員として田口 英樹 教授(東京工業大学大学院生命理工学研究科)をご推薦いただき、編集委員会において蛋白質科学分野における企画を担当いただいています。

「ライフサイエンス 領域融合レビュー」、2012年度は年間10本程度の公開を目標とし、そのうち、1~2本程度が蛋白質科学分野からのものになる予定です。2013年度以降は年間30本程度の公開をめざします。更新状況はtwitter(http://twitter.com/first_author)でもお知らせします。できるだけ多くの人にご覧いただきたく、また、執筆あるいは査読の依頼がありました際には、ぜひともご協力のほどお願い申し上げます。