第9回 SPring-8 ユーザ共同体(SPRUC)放射光構造生物学研究会「複合的アプローチによる結晶構造生物学の現状と今後」

2018年6月6日

近年、シンクロトロンにおけるマイクロフォーカスビームラインなどの発展に伴い、結晶構造解析技術は大きな進展を見せており、膜タンパク質や超分子複合体などの高難易度な研究ターゲットに関する多くの知見が得られるようになっている。一方で、構造生物学として生物学の本質に迫るためには、結晶構造解析と組み合わせて、動的構造解析を指向した自由電子レーザーによる時分割結晶構造解析、分光学や機能解析を組合せた相関構造解析など、単に静的原子構造からの議論にとどまらない研究が盛んに進められている。今回の研究会では、近年、特に進展の目覚ましい技術であるクライオ電顕を、結晶構造解析と組み合わせることで、分子の本質に迫る研究を行っている2名の演者に講演頂き、最新の研究成果について知見を深めると同時に、今後の構造生物学についての動向調査としても議論の場としたい。

日時 2018年6月28日(木)18時〜19時30分
場所 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター C 会場(3階中会議室)
ウェブサイト http://bioxtal.spring8.or.jp/ja/SPRUC/spruc_top_ja.html
プログラム

1. 開会挨拶(18:00〜18:10)

2. 話題提供

話題提供1(18:10〜18:40)
「プロトン駆動力変換チャネル ExbBD の作動機構の解明 --- クライオ EM と放射光の相補的利用」
理化学研究所放射光科学研究センター 生体機構研究グループ
米倉 功治 グループディレクター

高等動物から原核生物に至るまで、生体膜内外のプロトンの濃度勾配は、生命活動を担う重要なエネルギー源になる。私たちは、細菌の栄養素の輸送にこのプロトン駆動力を供給する ExbBD 複合体の構造を、放射光とクライオ電子顕微鏡を組み合わせ決定することに成功した。得られた構造から、この膜蛋白質がダイナミックに形態を変える活性化機構などが明らかになった。ExbBD は、分量が大きくない膜蛋白質で単粒子解析の適用が難しい試料である。今回、この解析の工夫と共に、私たちが開発してきた薄い三次元の結晶の電子線回折からの荷電状態解析、さらに、高分解能単粒子解析と電子線三次元結晶構造解析の両者に適するようデザインした新型クライオ電子顕微鏡システムについても紹介する。

話題提供2(18:40〜19:10)
「X 線結晶構造解析とクライオ電顕で明らかとなった酸素運搬蛋白質の立体構造」
東北大学生命科学研究科応用生命分子解析分野
田中 良和 教授

スルメイカの酸素運搬蛋白質ヘモシアニンは、分子量約 380 kDa のサブユニットが10個会合した、総分子量 3.8 MDa の超巨大な円筒状の蛋白質会合体である。各サブユニットには、約 50 kDa の配列の類似した機能ドメインが8個繰り返して存在しており、そのうち6つが円筒の外壁領域を、残りの2つが内部ドメインを形成する。我々は、2015年にスルメイカヘモシアニンの結晶構造を決定し、D5 の対称性を持つ外壁領域と、C5 の対称性で配置した5つの内部ドメインから構成されると報告した。その際、内部ドメインの電子密度は不鮮明であった。その後、我々は、正確な内部構造を明らかにするために、クライオ電子顕微鏡を用いて構造解析を行った。明らかになった構造は、結晶構造とは異なる内部構造を有していた。本研究は、対称性を持つ分子の構造解析におけるX線結晶構造解析の難しさと、クライオ電子顕微鏡の有用性を示す研究例の一つである。

3. 総合討論(19:10〜19:30)

研究会世話人
  • 梅名 泰史(岡山大学・異分野基礎科学研究所)
  • 竹下 浩平(理化学研究所・放射光科学センター)
  • 西澤 知宏(東京大学・生物科学)
研究会担当者
  • 放射光構造生物学研究会 副代表 熊坂 崇(JASRI)