大腸菌ペリプラズム抽出液の回収

広島大学大学院生物圏科学研究科・生物機能開発学専攻


  • キーワード大腸菌ペリプラズム蛋白質コールド・オスモティック・ショックリゾチーム
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概要

培養・集菌した大腸菌からペリプラズム抽出液を回収する2つの方法を記載する。リゾチームを用いる方法とコールド・オスモティック・ショックによる方法である。いずれの方法とも、大腸菌培養菌体から、3時間でペリプラズム抽出液を回収できる。

ペリプラズム抽出液には、ペリプラズム蛋白質が存在する。したがって、ここに記載する方法は、ペリプラズム蛋白質を精製する際に有効である。その理由は、大腸菌膜および細胞質に存在する蛋白質等を精製実験の開始時点で除くことができるからである。

これらの方法により著者の研究室では、大腸菌内因性および異種発現した種々のシトクロムcを精製している (1)。なお、大腸菌で蛋白質を異種発現するための培養・集菌方法については、本アーカイブズの「T7プロモーターを利用した大腸菌による組換え蛋白質の発現」(萩原 義久著)を参照されたい。また、ここに記載する2つの方法は、大腸菌以外のグラム陰性細菌にも適用可能である。

装置・器具・試薬

リゾチームを用いる方法

  • リゾチーム
  • Wash buffer (10 mM Tris-HCl (pH 8.0、4 ℃))
  • Spheroplasting buffer(10 mM Tris-HCl (pH 8.0、4℃)、 10 mM EDTA (pH 8.0)、 20 % (w/v) Sucrose)
  • 50 mMリン酸カリウムbuffer (pH 7.5、4 ℃)
  • 透析膜 (Spectra/Por 3、500 MWCO、Vol/Length 9.3 mL/cm)

コールド・オスモティック・ショックによる方法

  • Wash buffer (10 mM Tris-HCl (pH 8.0、4 ℃))
  • Spheroplasting buffer(10 mM Tris-HCl (pH 8.0、4℃)、 10 mM EDTA (pH 8.0)、 20 % (w/v) Sucrose)
  • 透析膜 (Spectra/Por 3、500 MWCO、Vol/Length 9.3 mL/cm)

実験の詳細

リゾチームを用いる方法

実験の手順は以下の通りである。

  1. 遠心分離により大腸菌培養液から菌体を集菌する。
  2. 上澄み液を捨て、菌体をWash bufferで3回洗浄する。その際、筆を用いて菌体を懸濁する。
  3. 菌体重量を測定し、菌体1グラム当り4 mLのSpheroplasting bufferを添加する。
  4. 筆を使って遠心チューブ内の菌体を懸濁する。
  5. 3 mg/mL Lysozymeを添加する。
  6. 37 ℃、25分間インキュベートする。5分おきに静かに攪拌する。
  7. 遠心する(23,000 g、4 ℃、15 min)。
  8. 上澄み液を回収し、ペリプラズム抽出液とする。
  9. 50 mMリン酸カリウムbuffer (pH 7.5、4 ℃)に対して一晩透析する。
  10. 適当な量ずつ分注して、液体窒素で凍結し、-80 ℃にて保存する。

以上の工程は3時間で完了する。

コールド・オスモティック・ショックによる方法

実験の手順は以下の通りである。

  1. 遠心分離により大腸菌培養液から菌体を集菌する。
  2. 上澄み液を捨て、菌体をWash bufferで3回洗浄する。その際、筆を用いて菌体を懸濁する。
  3. 菌体重量を測定し、菌体1グラム当り4 mLのSpheroplasting bufferを添加する。
  4. 筆を使って遠心チューブ内の菌体を懸濁する。
  5. 氷上、10分間インキュベートする。
  6. 遠心する(23,000 g、4 ℃、15 min)。
  7. 上澄み液を別の容器に移し、菌体1グラム当り4 mLの氷冷した水を添加する。
  8. 筆を使ってすばやく菌体を懸濁する。
  9. 氷上、10分間インキュベートする。
  10. 遠心する(14,000 rpm、4 ℃、15 min)。
  11. 上澄み液を回収し、ペリプラズム抽出液とする。
  12. 50 mMリン酸カリウムbuffer (pH 7.5、4 ℃)に対して一晩透析する。
  13. 適当な量ずつ分注して、液体窒素で凍結し、-80 ℃にて保存する。

以上の工程は3時間で完了する。

工夫とコツ

リゾチームを用いる方法

工程2の菌体洗浄を省略し、集菌後すぐにLysozymeで処理しても構わない。菌体洗浄を省略するメリットは、時間を短縮できる点、菌体洗浄によるペリプラズム抽出液の漏洩を防止できる点、である。

工程6では、あまり激しく攪拌しないようにする。

工程9では、適宜バッファーを選択しても構わない。また、透析により液量が約2倍になるので、余裕をもって透析膜を使用する。なお、透析膜は適宜選択しても構わない。

工程10の前に、用途によって濃縮しても構わない。

コールド・オスモティック・ショックによる方法

原著 (2) では、工程2を実施しているが、省略しても構わない。そのメリットは、「リゾチームを用いる方法」で記載したとおりである。

工程9では、適宜バッファーを選択しても構わない。また、透析により液量が約2倍になるので、余裕をもって透析膜を使用する。なお、透析膜は適宜選択しても構わない。

工程10の前に、用途によって濃縮しても構わない。

文献

  1. Oikawa, K., et al., J. Biol. Chem., 280, 5527-5532 (2005)
  2. Neu, H. C., and Heppel, L. A., J. Biol. Chem., 240, 3685-3692 (1965)