概要
ナノディスクへ再構成された膜蛋白質は、機能解析だけではなく、クライオ電子顕微鏡単粒子解析にも広く用いられるようになっている。しかし、ナノディスク再構成に苦労する話もよく耳にする。考えられる問題点として、(1)再構成のための操作が煩雑、(2)界面活性剤の除去方法や完全に除去できたのか判断しづらい、(3)使用するリン脂質/membrane scaffold protein(MSP)、混合する量比、など、検討すべきパラメーターが多く、一度に複数条件の検討が難しい、(4)空のナノディスクのコンタミ、などが挙げられると思う。我々は独自の抗ヒスタグ抗体を用いたオンカラムアフィニティ精製を確立しており、これを発展させ、オンカラムによるナノディスク再構成法へ応用している。オンカラム精製のイメージは図1の通りである。この方法は、前述した問題点に対して、(1)通常のオンカラム精製過程に、操作をプラスアルファするだけなので、取っ付きやすい、(2)界面活性剤の除去が容易、(3)同時に複数の条件を検討できる、(4)精製の原理上、空のナノディスクのコンタミがほとんどない、のような利点があると考えている。
ここでは、最も手軽に実施できるスケールのオンカラムナノディスク再構成の方法について紹介したい。出来るだけ分かりやすく文章や図で解説するが、スケールダウン/スケールアップも可能である。不明な点やご相談等があれば、お気軽に問い合わせて頂きたい。
装置・器具・試薬
オンカラムナノディスク再構成には以下のものを使用する。
装置
- ミックスローター(シーソー機能がある方が望ましい)
- ゲルろ過クロマトグラフィー装置
- ソニケーター(BRANSON社など)
- 遠心エバポレーター
- SDS-PAGEの泳動装置
器具
- ポリプレップカラムと付属の上下のキャップ(BioRad社)
- ゲルベットサポート(エコノパックカラム(BioRad社)に同梱されている)
- カラムホルダー(50 ml tubeのフタを直径2 cmのコルクボーラーで穴をあけたもの)
- ピンセット(先が尖っていないもの)
- カラムスタンドなどのオープンカラム精製できる一式
試薬など
- 界面活性剤
- cHis8-resin(当研究室から提供可能、他の精製タグシステムでも応用可能)
- 精製したMSP(Addgene社からプラスミド、Sigma社などから精製蛋白質が購入可能)
- 各種リン脂質(Avanti Polar Lipids社など)
- ポリスチレンビーズ(Bio-Beads SM-2:BioRad社、アンバーライトXAD-2:Sigma社など)
- HRV 3C protease(His-tagが除かれたもの、複数メーカーから精製蛋白質が購入可能)
- 濃縮用の限外ろ過スピンカラム(Merck-Millipore社のアミコンシリーズなど)
- SDS-PAGEのゲル、マーカーなど
実験手順
- ナノディスク再構成条件の検討項目
- オンカラム精製のための準備
- ナノディスク再構成のための準備
- ナノディスク再構成
実験の詳細
1)ナノディスク再構成条件の検討項目
膜蛋白質をナノディスクへ再構成する成功(高効率化)には、リン脂質の種類、MSPのサイズ、膜蛋白質:MSP:リン脂質の比率、界面活性剤の除去時間などの検討が必要である。パラメーターが多過ぎるので、用いるリン脂質やMSPの種類については、自分の研究対象とする膜蛋白質に近いホモログ、オルソログ、あるいは分子量や膜貫通の回数が近い分子のナノディスク再構成、あるいはリポソーム再構成の実施例を文献などで検索することをおすすめする。リン脂質については、用途により天然物抽出脂質と合成脂質を使い分けるのが良い。前者の場合、ターゲットの膜蛋白質が発現している組織のリン脂質組成に近いものを使用するのが、経験的に成功率が高いように思う。ナノディスク再構成でこれまでに報告されている膜蛋白質:MSP:リン脂質のモル比率は、1:1〜10:100〜500と幅広い。表1に、当研究室でナノディスク再構成に成功している膜蛋白質の一部について、膜蛋白質:MSP:脂質のモル比率などをまとめた。
表1: ナノディスク再構成における膜蛋白質:MSP:脂質の例
| membrane protein | MW (kDa) | TM | weight ratio | molar ratio | MSP | lipid |
|---|---|---|---|---|---|---|
| V-ATPase | 700 | 11 | 100:16:20 | 1:4:200 | 1E3D1 | POPC |
| A2a | 35 | 7 | 100:37:588 | 1:10:500 | 1D1 | POPC |
| P-glycoprotein | 140 | 12 | 100:141:122 | 1:10:350 | 1D1 | Brain polar extract |
| Thermophilic Rhodopsin | 85 | 7x3 | 100:149:160 | 3:4:160 | 1E3D1 | POPC |
| hERG (hERGT) Ver. 1 | 330 | 6x4 | 100:114:105 | 1:10:400 | 1E3D1 | POPE:POPC:POPA=5:5:1 |
| hERG (hERGT) Ver. 2 | 330 | 6x4 | 100:157:105 | 1:10:400 | 2N2 | POPE:POPC:POPA=5:5:1 |
V-ATPaseはEnterococcus hirae由来、Thermophilic Rhodopsin(TR)はThermus thermophilus由来、それ以外はヒト由来の膜蛋白質である。TRは3量体、hERGは4量体である。
2)オンカラム精製のための準備
2-1)精製用のコンストラクト
精製はオンカラムで行う。ここでは、当研究室で開発した8残基以上のヒスチジンタグに高親和性で結合するモノクローナル抗体の「cHis8」固定化レジン(cHis8-resinと呼ぶ)を用いた方法を紹介する(文献1、2)。ナノディスク再構成を行う前に、通常のdetergent精製において、cHis8-resinを用いて問題なく精製できるか、を確認し、レジン1 mlあたりのターゲットの膜蛋白質の吸着量を概算してナノディスク再構成に進むのが良い。
発現コンストラクトの基本構成は「膜タンパク質-HRV 3C protease site-8xHis」で良いが、当研究室では発現量をトレースするための蛍光タンパク質と(当研究室では緑色でモノマータイプのmNeonGreenを使用しているが、他の種類/色でも可)、HRV 3C proteaseの消化効率を高めるために、HRV 3C protease認識配列の前後にリンカー配列を導入している。
また原理的には精製用の他のタグシステムでも応用可能である。ターゲットの溶出をプロテアーゼで行うことを避けたい場合など、エピトープペプチドで溶出効率の良いタグシステムを利用するのも良いだろう。
2-2)界面活性剤中でのオンカラム精製の検討
ここでは、1 mlのcHis8-resinを使用したオンカラム精製を行う。1 mlのcHis8-resinには、ターゲットの膜蛋白質が約0.3〜1 mg吸着されるため、効率良く精製できれば、ゲルろ過クロマトグラフィーに供してUV検出ができ、精製の良し悪しが判断できる。
発現宿主から界面活性剤で可溶化した上清に1 mlのcHis8-resinを加えて2時間程度、4℃で穏やかに撹拌し、吸着させる。その後、ポリプレップカラムにアプライして上清を除き、さらにバッファーで30〜50 CVで洗浄する。洗浄後、HRV 3C proteaseを添加して4℃で一晩、穏やかに撹拌し、翌日に回収する。回収した画分を濃縮し、ゲルろ過クロマトグラフィーに供して、ピーク画分をSDS-PAGEで確認する。精製純度や回収量から、可溶化上清や、HRV 3C proteaseの添加量などを加減する。
3)ナノディスク再構成のための準備
3-1)MSPの準備
MSPは、ナノディスク化する時に膜蛋白質と脂質を巻き込むベルトのような役割をするタンパク質である。MSPはアポリポタンパク質A-I(ApoA-I)を改変して作られたもので、サイズ(ベルトの長さ)が異なるいくつかの種類が存在する。用いるMSPの種類は、ナノディスク化したいターゲットの膜蛋白質のサイズに応じて選択するのが良い(文献3)。MSPはAddgene社からプラスミドが、Sigma社などから精製標品が、購入可能である。プラスミドを購入する場合、精製方法は販売元のデータシートに記載の参考文献を参照するのが良い。MSPは大腸菌を宿主として発現し、通常のHis-tag精製から得られるが、本稿ではcHis8-resinを使用するので、最終的にはHis-tagを除去したMSPを用いる。我々はこのMSPに対して高親和性で結合するモノクローナル抗体の「biND5」を開発している(文献4)。この抗体を用いることで、SPRなどの分子間相互作用解析など、ナノディスクを用いた機能解析を行うことが可能である。MSPの派生型でNWxxと呼ばれるものもある(文献5)。筆者らは検討していないが、アミノ酸配列はMSPのものを利用しているので、「biND5」が結合できる可能性が高い。
3-2)脂質の可溶化
脂質は前述したように、検討すべき種類が多いパラメーターの一つである。報告としては天然脂質よりも、合成脂質を使用する例が多いと思う。我々は1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)を第一選択肢として用いることが多い。
脂質は10 mg/ml程度でクロロホルムに溶かして保存し、必要量を1.5ml tubeなどに測り取る。チューブを回しながら窒素ガスを吹き付けてクロロホルムを蒸発させながら、チューブの壁面に脂質をフィルム上に広げ、さらに遠心エバポレーターで完全に乾固する。その後、精製に使用するバッファー(界面活性剤を添加していない)で2-10 mg/ml程度に懸濁し、ソニケーターで脂質を微細化させる(白濁するが、ソニケーションすることで半透明になる)。その後、界面活性剤(POPCでDDMなら0.1%程度、LMNGなら0.01%程度)で溶液が透明になるまで完全に可溶化させる(ソニケーションしても良い)。
3-3)ポリスチレンビーズの前処理
ポリスチレンビーズは事前に前処理を行っておく。ビーズは静電気を帯びて扱いにくいので、チューブにある目盛り程度で大まかに測りとるので良い。ビーズ約10 ml容量を100 mlチューブに分取し、約10 mlのメタノールを加えて十分に混和する。ビーズがメタノールに浸った状態で1時間おきくらいに撹拌して静置する、を約半日繰り返す。その後、メタノールを除去し、精製水を約100 ml加えて十分に混和し、一晩静置する。浮遊したビーズは除去し、精製水をデカンテーションによって除く。再び精製水を約100 ml加えて、混和後にビーズが沈むまで静置する。この精製水による洗浄操作を約5回繰り返す。最終的には、ナノディスク再構成する時の膜蛋白質に使用している界面活性剤無しのバッファーに置換しておく。
4)ナノディスク再構成
4-1)操作の概要
ナノディスク再構成は3日間の工程で行う。操作の内容とおおよその所要時間は以下の通りである。
- 1日目:
- ターゲット膜蛋白質の可溶化と遠心分離(3hr)
- cHis8-resinへの吸着と洗浄(3hr)
- MSP&脂質とのインキュベートとポリスチレンビーズ添加(2hr)
- 2日目:
- ポリスチレンビーズの交換(0.1hr)
- 洗浄とHRV 3C proteaseの添加(1hr)
- 3日目:
- ナノディスク画分の回収(1hr)
- ナノディスク画分の濃縮(1hr)
- ゲルろ過クロマトグラフィー(2hr)
- SDS-PAGE&CBB染色&脱色(3hr)
4-2)操作の詳細
1日目
まず、ターゲットの膜蛋白質を発現させた細胞や菌体を界面活性剤で可溶化する。我々は2時間程度で可溶化を行い、遠心、または超遠心にて可溶化上清を得る。15 mlまたは50 ml tubeに可溶化上清とcHis8-resinを1 ml加え、ローテーターで4℃、2時間程度インキュベートする。回転速度は40 rpmで行っている。インキュベート後、ポリプレップカラムを準備し、レジンの懸濁液をアプライする。30-50 CVのバッファーで洗浄後、下方のキャップをしてカラムに残っているレジンと適量のMSPと脂質、バッファーで合計2 ml程度となるように添加し、ゲルベッドサポートを載せる(ゲルベットサポートに挟まれた空間は約3 mlの容量である)。ゲルベットサポートはピンセットなどで少し押し込むが、この時、液面とゲルベッドサポートの間に泡立たないように注意する。上方のキャップをし、自作した50 ml tubeのポリプレップカラムホルダーにカラムをセットして、ローテーターで4℃、1時間程度インキュベートする(図2)。この操作で、ターゲットの膜蛋白質の周囲に脂質とMSPが存在する環境になっている。インキュベート後、カラムの上方のキャップを外し、前処理したポリスチレンビーズを1 ml程度入れて、再びキャップをして、カラムホルダーにカラムをセットし、ローテーターで4℃、一晩、インキュベートする。
2日目
カラムの上方のキャップを外し、中のポリスチレンビーズを除く。新たなポリスチレンビーズを1 ml程度入れて、再びキャップをして、カラムホルダーにカラムをセットし、ローテーターで4℃、6時間程度インキュベートする。インキュベート後、カラムの上方のキャップを外し、中のポリスチレンビーズを除く。次にゲルベッドサポートを外し、下方のカップを外して界面活性剤無しのバッファーで10-20 CVで洗浄する。ここまでの操作で、空のナノディスクは洗い流され、ナノディスク化されたターゲットの膜蛋白質のみが、cHis8-resin上にキャプチャーされていることになる。下方のキャップをし、バッファー1 mlと適量のHRV 3C proteaseを添加する。上方のキャップをして、カラムホルダーにカラムをセットし、ローテーターで4℃、一晩インキュベートする(この時、ゲルベットサポートを装着しても良い)。
3日目
カラムの上下のキャップを外し、溶出液を回収する。さらに1-2CVのバッファーを滴下し、これも回収する。回収したナノディスク画分は、適切なcut-offの限外ろ過スピンカラムで濃縮を行い、ゲルろ過クロマトグラフィーに供して、ピーク画分を分取する。必要があれば再び濃縮を行って目的の解析へと進む。上記の操作途中で適宜、サンプリングを行い、SDS-PAGEにてナノディスク再構成を確認する。目的のナノディスクが再構成されていれば、ターゲットの膜蛋白質とMSPの2つのバンドが確認できるはずである。なお、MSPはCBB染色では染色されにくい性質がある。cHis8-resinは再生できるので、pH 2.5前後の100 mM グリシン塩酸バッファーで洗浄後、精製で使用するバッファーなどで洗浄して中和後に保存する。
工夫とコツ
使用する界面活性剤
界面活性剤は、目的の膜蛋白質が安定に存在でき、かつ可溶化効率の良いものを選択すべきであるが、それぞれの臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration: CMC)に注意していただきたい。特にCMCの低い界面活性剤(例えばLauryl Maltose Neopentyl Glycol: LMNG)の場合は、ポリスチレンビーズの添加量や交換回数、HRV 3C protease添加前の洗浄量を増やすなどすると良い。
脂質の可溶化
脂質の種類によって界面活性剤への可溶化のしやすさが異なるので検討が必要である。界面活性剤は再構成中に除去しなければいけないので、できるだけ低めの濃度で調製するようにする。
ゲルベッドサポートの取り付けと液量
ポリプレップカラムへゲルベッドサポートを押し込む時は、25 mlや50 mlのディスポーザブルのプラスチックピペットを水平にカットしたものを準備すると、均等に力がかかりやり易い。
液面とゲルベッドサポートの間に泡があるとうまく撹拌されず、上方にあるポリスチレンビーズと接触できない結果、界面活性剤が除去されない、という状況になる。慣れないうちは、ゲルベッドサポートまでの空間の3 mlをバッファーで満たし、ゲルベッドサポートを取り付けた段階でバッファーがゲルベッドサポートを少し超える程度の液量にするとよい(ただし、除去すべき界面活性剤の量が増えるので注意する)。
ポリスチレンビーズの扱い
cHis8-resinに目的の膜蛋白質がキャプチャーされ、ゲルベッドサポートにより隔てられるので、ポリスチレンビーズの添加、除去は大雑把に行う(筆者は洗ビンでバッファーを吹きつけて洗い落としている)。 また、本稿ではポリスチレンビーズをメタノールによる前処理する方法を紹介しているが、再構成後に凝集体が多い場合は、バッファーによる湿潤/洗浄だけを行ったポリスチレンビーズを用いてみるとよい。
実験の安全
脂質を溶解しているクロロホルムは揮発性が強く有毒である。この薬品の分注、乾燥操作をする場合には必ずドラフト中で行うこと。
ポリスチレンビーズの前処理に使用するメタノールの廃液は、所属する研究機関の排出規定に従うこと。
カラムホルダーに使用する50 ml tubeの穴あけの際はコルクボーラーを使用することをお勧めする。ハサミなどでも代用可能であるが、怪我に十分注意すること。
参考文献
- Asai T. et al., Structure, 29, 203–212 (2021)
- Hamaguchi-Suzuki N. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 709, 149855 (2024)
- Cannon K. S. et al., J. Struct. Biol., 215, 107989 (2023)
- Nakagawa F. et al., Sci. Rep., 13, 11627 (2023)
- Arcario M. J. et al., Biochim. Biophys. Acta - Biomembr., 1867, 184451 (2025)
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図1:オンカラムナノディスク再構成のイメージ図
可溶化した膜蛋白質は、抗ヒスタグ抗体(cHis8)を固相化したレジンでキャプチャーし洗浄する。そのままHRV 3C protease処理をすると、界面活性剤中での精製膜蛋白質が得られる(中央)。cHis8-レジンにキャプチャーしたままリン脂質とMSPを加え、界面活性剤を除去すると、オンカラム上でナノディスクが再構成される。この後にHRV 3C protease処理をすると、目的の膜蛋白質だけが再構成された精製ナノディスクが得られる。 -
図2:オンカラムナノディスクに用いる器具の概要
ポリプレップカラムにゲルベットサポートを装着したイメージ図。さらに50 ml tubeのフタに穴をあけたカラムホルダーにカラムをセットした様子。カラムホルダーを用いてローテーターで回すことで、回転がスムーズになり、内部の撹拌が十分に行われる。