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U:mRNAの合成と精製
mRNAの合成には市販のRNA大量合成キットを使用する[工夫とコツ3]。また、mRNA精製の目的は、未反応NTPと塩の除去である。未反応のNTPは、分光光度計を用いたmRNA濃度定量時に検出されるため正確な定量を妨げる(見かけ上、mRNA量が増加)。タンパク質合成時のmRNA濃度は非常に重要であるため、mRNAの正しい定量が必要となる。そのため、ゲル濾過カラムによる未反応NTPの除去を推奨する。
1.mRNAの合成
ここでは、反応時間が短く使い勝手の良い、下記の2つのキットを用いたmRNA合成例を示す。
タンパク質合成反応液量に従って、スケールアップ・ダウンして合成する。100μL反応スケールで合成した場合、その後の精製を経て、およそ300-600μg程度のmRNAが取得可能である。
@Epicentre社 AmpliScribeTM T7-FlashTM Transcription Kit (ASF3257)
| 鋳型DNA | 5 μg |
| 10×Buffer | 10 μL |
| ATP | 9 μL |
| CTP | 9 μL |
| GTP | 9 μL |
| UTP | 9 μL |
| DTT | 10 μL |
| T7 RNA Polymerase | 10 μL |
| RNase Free Water | to 100 μL |
反応は、37℃で30分間行う。
APromega社 T7 RiboMAXTM Express Large Scale RNA Production System (P1320)
| 鋳型DNA | 5 μg |
| 2×Buffer | 50 μL |
| T7 RNA Polymerase | 10 μL |
| RNase Free Water | to 100 μL |
反応は、37℃で30分間行う。
いずれのキットの場合にも、反応終了後は一旦冷却などはせずに、速やかに精製を行うこと。
[工夫とコツ4]
2.mRNA精製
mRNAの精製はゲル濾過による未反応NTP・塩の除去とエタノール沈殿による濃縮を目的に行う。フェノール精製などは特に必要ない。また、使用する水も滅菌蒸留水で問題ない。ここではGE社製NICKTM Columns(17-0855-01)を用いた精製法について示す。
カラムの上フタを外し、溶液を捨てる。3mLの滅菌蒸留水でリンスし、再度滅菌蒸留水を捨てる。カラム先端のキャップを外し、スタンドに立て、ゲルを平衡化するため3mLの滅菌蒸留水を加え、完全に流しきる。mRNA溶液をゲル上端にのせ(最大100μLまで)、完全に流しきる。400μLの滅菌蒸留水を加え、完全に流しきる。mRNA溶液を受けるため、1.5mLチューブをカラムの下に配置し、400μLの滅菌蒸留水を加え、mRNA溶液を回収する。回収したmRNA溶液に40μLの3M 酢酸カリウムと950μLのエタノールを加え、よく混合し15,000rpm、4℃で20分間遠心分離する。上清は捨て、70%エタノールでリンスを行い、mRNAの合成スケールに応じて20〜100μLの滅菌蒸留水に溶解する。mRNA濃度は2mg/mL以上に調整すること[工夫とコツ5]。
3.mRNAの確認
mRNAが正しく合成できたかどうかは、精製後に電気泳動で確認する事が可能である。
初めてmRNAを合成、精製したような場合には、精製後に正しくmRNAが合成できたかどうかを電気泳動によって確認することを推奨する。以下にプロトコルと実験結果の一例を示す。
| 20×MOPS | 1 μL |
| ホルムアルデヒド | 3 μL |
| ホルムアミド | 8 μL |
| サンプル溶液 | 8 μg |
| 滅菌蒸留水 | to 20 μL |
上記の組成にて混合後、65℃で15分間加熱処理する。1%アガロースゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイドにて検出する。
結果を図1に示す。図のようにバンドが検出されれば問題ない。逆に、「バンドが見えない」もしくは「スメアになっている」場合は、mRNAの分解が考えられるため、実験過程でRNaseのコンタミがなかったか、鋳型DNA調製時にフェノール/クロロホルム抽出を行ったかなど、確認する。
V:タンパク質合成
TransdirectキットからReaction Buffer、4 mM Methionine、Insect Cell Extractを取り出し、氷上にて溶解する。また、これ以降の工程は、タンパク質合成を開始するまで氷上で行う[工夫とコツ6]。
下記に示す組成にて、反応液(50μLスケール)を調製する[工夫とコツ7]。
| Reaction Buffer | 15 μL |
| 4 mM Methionine | 1 μL |
| Insect Cell Extract | 25 μL |
| mRNA | 16 μg |
| 滅菌蒸留水 | to 50 μL |
穏やかに混合した後、必要であればスピンダウンして25℃で5時間インキュベートする。反応終了後は速やかに氷上に移し、その後の実験に用いる。
W:タンパク質の発現確認
通常、SDS-PAGE後のCBB染色による目的タンパク質の発現確認は難しい。そこで、Transdirectを用いたタンパク質の発現は、蛍光試薬によるラベル、RIによるラベル、ウェスタンブロッティングなどで確認する。ここでは、非常に簡便に発現を確認することが出来る、蛍光試薬によるラベル化法について示す。蛍光試薬としてはプロメガ社FluoroTect TM GreenLys in vitro Translation Labeling System (L5001)を用いる。50μLあたり1μLのFluoroTectを反応液に加え、反応を行う。以下にその組成を示す。
| Reaction Buffer | 15 μL |
| 4 mM Methionine | 1 μL |
| Insect Cell Extract | 25 μL |
| FluoroTect | 1 μL |
| mRNA | 16 μg |
| 滅菌蒸留水 | to 50 μL |
穏やかに混合した後、必要であればスピンダウンして25℃で5時間インキュベートする。反応終了後、2μLのSDS-PAGE loading buffer (4X)を反応液6μLに対して添加し、70℃で3分間熱処理する。このサンプルをSDS-PAGEで分離後、レーザーベースの蛍光イメージアナライザーにて検出する[工夫とコツ8]。実験例として、β-ガラクトシダーゼを発現した結果を図2に示す。
X:合成タンパク質のアフィニティ精製
N末端、或いはC末端にstrep-tag®(IBA GmbH)またはFLAG®-tag(Sigma-Aldrich Corp.)を導入することで、簡便に目的タンパク質を回収することが可能である。ここでは、これらのプロトコルを示す[工夫とコツ9]。
1.cDNAへのタグ配列の導入とpTD1へのクローニング
@ プライマーの設計
目的に応じて、下記いずれかのプライマーセットを合成する。

A PCRによる鋳型DNAの作成
「T:発現ベクターの構築」のプロトコルに従って、目的遺伝子を増幅し、pTD1ベクターに挿入する。
2.mRNAの合成と精製
「U:mRNAの合成と精製」に従って、mRNAを調製する。反応スケールは100μLで行う。これにより、およそ500μg程度のmRNAが取得可能である。
3.タンパク質合成
「V:タンパク質合成」に従って、目的タンパク質を合成する。
1 mLスケールにてタンパク質合成を行う。下記に組成を示す。
| mRNA | 320 μg |
| 4 mM Methionine | 20 μL |
| Reaction Buffer | 300 μL |
| Insect Cell Extract | 500 μL |
| 滅菌蒸留水 | to 1000 μL |
穏やかに混合した後、必要であればスピンダウンして25℃で5時間インキュベートする。反応終了後、15,000 rpmにて15分間遠心分離を行う。
4. アフィニティ精製
mRNA精製に使用したNickTM columnsを洗浄した空きカラムを用いてアフィニティカラムを作製する。カラムの作製はある程度の時間を要するため、タンパク質合成を行う前に行うことを推奨する。
@strep-tag®の場合
Strep-Tactin® Superflow(QIAGEN社30001または30003)のオープンカラムを作製する。50%のスラリーとして供給されるので、カラム1本あたり1 mLのスラリーを使用する。mRNA精製に使用したNickTM columnsを洗浄した空きカラムに上述のスラリーを充填し、フィルターをカラム上端に設置する。以上の操作でbed volume 0.5mLのオープンカラムが作製できる。以下に精製の手順を示す。
50mM Tris-HCl, pH8.0, 300mM NaCl(Buffer A、5mL)でカラムを平衡する。カラムにタンパク質合成反応液の遠心上清をアプライする。0.5mLのBuffer Aでカラムを洗浄する。この操作は5回繰り返す。2.5mM Desthiobiotin(SIGMA社、D1411-1G)を含むBuffer Aを1.5mL添加し溶出する。溶出液をスピンタイプの限外ろ過で20-50μL程度まで濃縮する[工夫とコツ10]。
AFLAG®-tagの場合
Anti-FLAG® M2 Agarose from mouse(SIGMA社、A2220)を用いて、上記と同様の操作でオープンカラムを作製する。 50%のスラリーとして供給されるので、カラム1本あたり1 mLのスラリーを使用する。以下に精製の手順を示す。
はじめに、タンパク質合成反応液にはDTTが含まれるため、反応液を50mM Tris-HCl, pH8.0, 150mM NaCl(Buffer B)で平衡化したPD-10(GE社、17-0851-01)にアプライし脱塩する。
次に、作製したカラムをBuffer B 5mLで平衡化する。カラムに脱塩処理を行ったPD-10の溶出液をアプライする。1mLのBuffer Bでカラムを洗浄する。この操作は5回繰り返す。100μg/ mL FLAG Peptide(SIGMA社、F3290)を含むBuffer Bを2.5 mL添加し、溶出する。溶出液をスピンタイプの限外ろ過で20-50μL程度まで濃縮する[工夫とコツ11]。
実験例として、β-ガラクトシダーゼのN末端、C末端にそれぞれstrep-tag®またはFLAG®-tagを導入し、アフィニティ精製を行った結果を図3に示す。典型的な例として、このように 1 mLの反応液あたり10-20μgのタンパク質が取得可能である。しかしながら、どちらのタグを用いるか、またN末端C末端どちらにタグを導入するかは、タンパク質の種類によって大きく異なる。次項にタンパク質精製時におけるトラブルシューティングおよびその対処法を記す。
5.精製に関するトラブルシューティング
○ 目的タンパク質の収量が少ない
・ 目的タンパク質が可溶性画分にあることを確認する。可溶性画分にある場合、カラムに吸着していないことが考えられる。このような場合は、使用するタグの種類、タグの導入位置を検討する。その際に、次項で詳述するようなスペーサー配列の目的遺伝子とタグ配列の間への挿入についても検討する。
・ 排除分子量の小さな限外ろ過膜を用いて濃縮する。
・ カラムを新しいものに変更する。
○ 目的タンパク質の精製度が低い
・ 抽出液由来タンパク質のカラムへの非特異的吸着、または目的タンパク質への吸着が考えられる。このような場合、バッファー系を検討する。Strep-Tactin® Superflowでは、1% Triton X-100、1% Tween、0.3% CHAPS、2% Igepal CA-630、1M NaClなどが使用可能である。Anti-FLAG® M2 Agarose from mouseでは、5% Triton X-100、5% Tween20、0.1% CHAPS、0.1% Igepal CA-630、1 M NaClなどが使用可能である(詳細は各製品の取扱説明書参照)。
・ 膜貫通領域やシグナルペプチドなどの疎水性領域を含むタンパク質を合成、精製した場合、約50kDa、70kDa付近の抽出液由来のタンパク質がコンタミするケースが多く観察されている(50kDaのタンパク質についてはβ-チューブリンであることを確認済み)。このような場合は疎水性領域を欠損させたコンストラクトを構築することを推奨する(例:シグナルペプチドを有するタンパク質を成熟型タンパク質として発現)。
6.スペーサー配列を含むタグ発現用ベクターの構築
目的遺伝子とタグ配列の間にスペーサー配列を挿入することで、回収率が飛躍的に改善される場合がある。ここでは、C末端タグの前に8つのグリシン残基からなるスペーサー配列が挿入される発現ベクターの構築法を記す。
@strep-tag®の場合
以下のプライマーを合成する。
| G8-strep-F: |
| 5’-GGGAATTCGGTACCGGATCCGGTGGAGGTGGAGGTGGAGGTGGATGGAGCCATCCGCAGTTTGAAAAGTAATCTAGAGC-3’ |
| G8-strep-R: |
| 5’-GCTCTAGATTACTTTTCAAACTGCGGATGGCTCCATCCACCTCCACCTCCACCTCCACCGGATCCGGTACCGAATTCCC-3’ |
両者のプライマーを混合しアニールする。EcoRIおよびXbaIで消化し、これをpTD1のEcoRI-XbaIサイトに挿入する。
AFLAG®-tagの場合
以下のプライマーを合成する。
| G8-FLAG-F: |
| 5’-GGGAATTCGGTACCGGATCCGGTGGAGGTGGAGGTGGAGGTGGAGACTACAAGGATGACGATGACAAGTAATCTAGAGC-3’ |
| G8-FLAG-R: |
| 5’-GCTCTAGATTACTTGTCATCGTCATCCTTGTAGTCTCCACCTCCACCTCCACCTCCACCGGATCCGGTACCGAATTCCC-3’ |
@と同様の操作でpTD1のEcoRI-XbaIサイトに挿入する。
構築したベクターの塩基配列を以下に示す。

本ベクターへの目的遺伝子のクローニングにおいて、N末端側プライマーは開始コドン以下の配列を使用する。C末端側のプライマーには、ベクターに既に組み込まれているためストップコドンを含めない。また、C末端プライマーにはEcoRI、KpnI、BamHIサイトに挿入できる制限酵素サイトを導入する。開始コドンは、EcoRVの切断サイトに挿入することを推奨する。
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